結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「あ、そうだ。頼まれていたやつ、手に入った」
そう言ってレインは1冊の古い本をルキに渡す。
「写本だけど。これは何に使うんだ?」
ルキに頼まれたのは家紋の載っている資料集で、数代前のコレには現在存在しない貴族の家紋や王族に一人一人に割り当てられた印章などが載っている。
「ちょっと祖父様に聞きたいことがあるんだけど、その前に下調べを」
あの人を相手にする時は、入念に準備しとかないとまともに取り合ってもらえないからとルキは苦笑する。
「元宰相の相手は孫でも苦労するんだな。そう言えば、ブルーノ公爵が王都にくるって本当?」
レインに聞かれたルキは、目を伏せ盛大にため息を吐き頷く。
「相変わらず苦手なのか」
「あの人、何考えてるか全く分からないんだよ」
母が駆け落ちした相手と無理心中した後、父は現実から逃げるように一人だけ領地に引き篭もってしまった。その時できた溝の埋め方は分からず、ルキは向き合う事を諦めた。
引き篭もったとはいえ、領地の経営はしてくれているし表立って社交界に顔を出さないだけで公爵としての務めは果たしている。
だから今まで特に不満を抱いた事もない。
「お互い不干渉のままであっても構わなかったんだけど、今回の夜会ばかりは出てもらわないと」
ナジェリー王国との交流も大詰め。最後の夜会は伯爵家以上は誰かしら出席する大規模な夜会だ。
「俺はエステル王女のお相手をするように仰せつかっているからな。夜会に未成年のシルを一人で出すわけにもいかないし」
父がダメなら祖父に頼もうと思っていたが当主を無視していきなり打診するわけにもいかず一応くらいの気持ちで立てたお伺いの返答は意外にも了承だった。
「まぁ何はともあれ久しぶりに親子が揃うわけだ。ベル嬢の事紹介するの?」
「あの人は王都に来てもうちに帰ってくる事はないし、ベルに会わせる気はない」
ルキはキッパリと否定する。
「契約婚約結んだ俺が言うなって話なんだけど、ベルの事を軽んじる人にベルを会わせたくない。会わせるとしたら、ちゃんと根回しした後じゃないと」
交渉には準備が必要だ。まだ、その時じゃないとルキはレインに用意してもらった資料の表紙を撫でる。
「なるほど、じゃあひとつ忠告を」
何か大きな決断をしたらしいと悟ったレインは、
「アネッサ王女に、ルキには大事な婚約者がいるんだってしっかりアピールしとけよ」
真面目な顔でそう言った。
「なんでアネッサ王女?」
エステル王女には結婚しないのかと聞かれたので、先を考えている婚約者がいるとはっきり伝えている。
彼女の中にあった熱の色はすぐに冷め、その後は純粋に鉱物や宝石、彼女の取り扱う事業についての話しかしていない。
「アネッサ王女は欲しいもののためなら割と強引な手段も取るタイプだから」
だから大輪のバラと称されながらも今まで縁談がまとまらなかったのだとレインは話す。
「ベル嬢が大事なら、手を離すなよ。何があっても」
バラの棘に刺されないように、とレインは真剣に忠告する。
アネッサとの個人的な会話はなかったし、彼女から熱を向けられた感じは全くなかったが、念のため気に留めて置こうとルキは静かに頷いた。
そう言ってレインは1冊の古い本をルキに渡す。
「写本だけど。これは何に使うんだ?」
ルキに頼まれたのは家紋の載っている資料集で、数代前のコレには現在存在しない貴族の家紋や王族に一人一人に割り当てられた印章などが載っている。
「ちょっと祖父様に聞きたいことがあるんだけど、その前に下調べを」
あの人を相手にする時は、入念に準備しとかないとまともに取り合ってもらえないからとルキは苦笑する。
「元宰相の相手は孫でも苦労するんだな。そう言えば、ブルーノ公爵が王都にくるって本当?」
レインに聞かれたルキは、目を伏せ盛大にため息を吐き頷く。
「相変わらず苦手なのか」
「あの人、何考えてるか全く分からないんだよ」
母が駆け落ちした相手と無理心中した後、父は現実から逃げるように一人だけ領地に引き篭もってしまった。その時できた溝の埋め方は分からず、ルキは向き合う事を諦めた。
引き篭もったとはいえ、領地の経営はしてくれているし表立って社交界に顔を出さないだけで公爵としての務めは果たしている。
だから今まで特に不満を抱いた事もない。
「お互い不干渉のままであっても構わなかったんだけど、今回の夜会ばかりは出てもらわないと」
ナジェリー王国との交流も大詰め。最後の夜会は伯爵家以上は誰かしら出席する大規模な夜会だ。
「俺はエステル王女のお相手をするように仰せつかっているからな。夜会に未成年のシルを一人で出すわけにもいかないし」
父がダメなら祖父に頼もうと思っていたが当主を無視していきなり打診するわけにもいかず一応くらいの気持ちで立てたお伺いの返答は意外にも了承だった。
「まぁ何はともあれ久しぶりに親子が揃うわけだ。ベル嬢の事紹介するの?」
「あの人は王都に来てもうちに帰ってくる事はないし、ベルに会わせる気はない」
ルキはキッパリと否定する。
「契約婚約結んだ俺が言うなって話なんだけど、ベルの事を軽んじる人にベルを会わせたくない。会わせるとしたら、ちゃんと根回しした後じゃないと」
交渉には準備が必要だ。まだ、その時じゃないとルキはレインに用意してもらった資料の表紙を撫でる。
「なるほど、じゃあひとつ忠告を」
何か大きな決断をしたらしいと悟ったレインは、
「アネッサ王女に、ルキには大事な婚約者がいるんだってしっかりアピールしとけよ」
真面目な顔でそう言った。
「なんでアネッサ王女?」
エステル王女には結婚しないのかと聞かれたので、先を考えている婚約者がいるとはっきり伝えている。
彼女の中にあった熱の色はすぐに冷め、その後は純粋に鉱物や宝石、彼女の取り扱う事業についての話しかしていない。
「アネッサ王女は欲しいもののためなら割と強引な手段も取るタイプだから」
だから大輪のバラと称されながらも今まで縁談がまとまらなかったのだとレインは話す。
「ベル嬢が大事なら、手を離すなよ。何があっても」
バラの棘に刺されないように、とレインは真剣に忠告する。
アネッサとの個人的な会話はなかったし、彼女から熱を向けられた感じは全くなかったが、念のため気に留めて置こうとルキは静かに頷いた。