結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「つまり、ルキ様のご決断にはシルヴィア様は異を唱えない、という事ですね?」
言質を取ったとばかりにアネッサはそう言ったが、ルキが彼女のようなタイプの人間になびくとは思えない。
「私は、兄の幸せを祈るだけです」
シルヴィアはそう言って話題を変えようと妹姫のエステルがつけている珍しい綺麗な銀細工の髪留めに目をやり褒めた。
「私も、とても気に入っているのです」
そう言って話し始めたエステルはその髪留めとそこに留まる石、そして廃石活用について嬉しそうに語る。
話し方も面白く、テーブルについていた人間はたちまちエステルの話に夢中になった。
「実はコレ、ルキ様が選んでくださったのです」
エステルの発言に会場が色めき立つ。よく見なくてもその髪留めに散りばめられた石の色はルキの目の色だった。
社交界において、自分を連想させるカラーの装飾品を贈るという事がどういう事であるか、言うまでもない。
そしてそんな恋愛話に敏感な年頃の女の子達がそれに食いつかないわけがない。
それが、氷の貴公子などと二つ名がつくほど有名で、社交界で憧れない者などいないルキの話題ならば尚更。
エステルは問われるままにルキにエスコートされていたここ数日のことを素直に話す。その話を聞く度にまるでロマンス小説みたいだと子女たちは色めき立った。
それを涼しい顔で聞きながらシルヴィアは扇で隠した裏で唇を噛む。
やられた、と思った。
おそらくエステルは意図していないだろうが、これではルキがエステルの事を密かに恋したっているようではないか。それも昨年の夏から流行っている密かな恋をテーマとしたラブロマンスの観劇のように。
姉のアネッサの狙いは初めからコレだったのだと察する。
あたかも自分がルキを狙っているように見せかけて、シルヴィアの発言を封じた後にエステルに追い風となるようにこの場の雰囲気を支配する。
圧倒的な社交術の差にシルヴィアはどうする事もできず、悔しさと己の未熟さを噛み締めてお茶会を終える事となった。
******
もし、これをきっかけにルキとエステルの恋路を応援する声が上がり、世論がそうならちょうどいいとばかりに国と国を挟んでの政略結婚に発展したらどうしようとシルヴィアは泣きそうになる。
エステルはとても可愛いお姫様だったが、シルヴィアとしては断固拒否だ。
「お兄様のバカぁぁぁあ!!」
そう叫んだシルヴィアはパチンと頬を叩くと、やっぱり今すぐベルに会わなくてはと立ち上がる。
会えるかどうかは分からないけれど、ダメでも行ってみよう。そう決めたシルヴィアはこっそり貯めていたお小遣いを手に取って、屋敷をそっと抜け出した。
言質を取ったとばかりにアネッサはそう言ったが、ルキが彼女のようなタイプの人間になびくとは思えない。
「私は、兄の幸せを祈るだけです」
シルヴィアはそう言って話題を変えようと妹姫のエステルがつけている珍しい綺麗な銀細工の髪留めに目をやり褒めた。
「私も、とても気に入っているのです」
そう言って話し始めたエステルはその髪留めとそこに留まる石、そして廃石活用について嬉しそうに語る。
話し方も面白く、テーブルについていた人間はたちまちエステルの話に夢中になった。
「実はコレ、ルキ様が選んでくださったのです」
エステルの発言に会場が色めき立つ。よく見なくてもその髪留めに散りばめられた石の色はルキの目の色だった。
社交界において、自分を連想させるカラーの装飾品を贈るという事がどういう事であるか、言うまでもない。
そしてそんな恋愛話に敏感な年頃の女の子達がそれに食いつかないわけがない。
それが、氷の貴公子などと二つ名がつくほど有名で、社交界で憧れない者などいないルキの話題ならば尚更。
エステルは問われるままにルキにエスコートされていたここ数日のことを素直に話す。その話を聞く度にまるでロマンス小説みたいだと子女たちは色めき立った。
それを涼しい顔で聞きながらシルヴィアは扇で隠した裏で唇を噛む。
やられた、と思った。
おそらくエステルは意図していないだろうが、これではルキがエステルの事を密かに恋したっているようではないか。それも昨年の夏から流行っている密かな恋をテーマとしたラブロマンスの観劇のように。
姉のアネッサの狙いは初めからコレだったのだと察する。
あたかも自分がルキを狙っているように見せかけて、シルヴィアの発言を封じた後にエステルに追い風となるようにこの場の雰囲気を支配する。
圧倒的な社交術の差にシルヴィアはどうする事もできず、悔しさと己の未熟さを噛み締めてお茶会を終える事となった。
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もし、これをきっかけにルキとエステルの恋路を応援する声が上がり、世論がそうならちょうどいいとばかりに国と国を挟んでの政略結婚に発展したらどうしようとシルヴィアは泣きそうになる。
エステルはとても可愛いお姫様だったが、シルヴィアとしては断固拒否だ。
「お兄様のバカぁぁぁあ!!」
そう叫んだシルヴィアはパチンと頬を叩くと、やっぱり今すぐベルに会わなくてはと立ち上がる。
会えるかどうかは分からないけれど、ダメでも行ってみよう。そう決めたシルヴィアはこっそり貯めていたお小遣いを手に取って、屋敷をそっと抜け出した。