結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ベルーー!!」

 ぎゅっと抱きついてきたシルヴィアの髪を撫でながら、

「いやぁーシル様の行動力に私感服いたしました」

 お嬢様の家出とベルは肩を震わせながら爆笑する。

「ベルお前なぁ。公爵令嬢が黙って屋敷飛び出して来てるんだから、大人として叱れよ。ていうか、絶対ベルの悪影響だろ」

 ベルの隣で呆れたような声でそう言ったベルの兄であるストラル伯爵はため息を漏らす。

「で、ベロニカその脅迫文は何?」

 伯爵は『シルヴィアお嬢様は我々が預かった』と切り抜きで作った犯行声明文を指してややこしくなるからやめなさいとストップをかける。

「えーだって初めての家出ですよ? 自作自演の誘拐劇はマストでしょ」

 そんなわけで急いで作ってみましたとドヤ顔で見せるベロニカは、

「誘拐といえば脅迫文! これはもう様式美ですよ」

 とワクワクした顔で伯爵に感想を求める。
 無愛想な顔のままそれを受け取った伯爵は、

「んーここネコいる? コレだとふざけてる感出すぎて取り合ってもらえないだろ。あと広告の裏は流石にない」

 設定からこだわるべきだと伯爵は真面目に主張する。

「なるほど! やるなら徹底的に、ですね。身代金は公爵家破産する額でいいですか?」

「リアリティに欠けるな。請求相手は外交省のエースだろ。自作自演なら請求したいものはお嬢様に聞かないと」

「本人の希望は大事ですよねー。シルさん、何要求します?」

 突然話を振られたシルヴィアは、

「えーっと、私今家出の上に自作自演で誘拐されているのですか?」

 なんでこうなった、とついていけない状況に目をパチパチさせながらベルの服を引っ張る。

「ふふ、どうやらそういう設定みたいですね。お義姉様、匿う方向でいいんですか?」

 ベルはそう言ってシルヴィアをここまで連れて来たベロニカに尋ねる。

「お嬢様の初めての家出。何やらワクワクしかない響き!」

 人間1回や2回や3回くらいは家出したくなりますよね、分かりますと頷くベロニカは、

「匿ってあげましょう、全力で」

 ぐっと親指を立ててと楽しげに笑った。
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