結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
夜会は今まで参加したことのあるどれよりも素晴らしく、趣向を凝らしたものであった。
それだけ今回の外交に力を入れているのだと理解できたし、それに兄が関わっているという事をシルヴィアは心から誇らしく思う。
ナジェリー王国の王女様達との挨拶はわずかな時間だった。それでもその瞬間、シルヴィアは公爵令嬢として精一杯綺麗に礼を尽くした。
お茶会でやり込められたアネッサ王女は少しだけ驚いた顔をして、興味深そうな視線を寄越したがにこやかに笑って見せた。
今、自分がすべき事は攻撃でも牽制でもない。この国の貴族の一員として、彼女達を歓迎しているのだと示すことだから。
「……大きく、なったな。シルヴィア」
夜会の挨拶周りが一通り済んだ所で、シルヴィアの父である現ブルーノ公爵、ルシファーがそう声をかけて来た。
「ええ、時は確実に流れておりますので」
「いつの間に、こんなに大きくなったんだろうな」
「お父様が領地経営にご尽力なされている間に、ですわ」
「……嫌味も上手くなったな」
「いいえ、本心です」
シルヴィアはそっとネックレスに触れる。自分とルキと同じ眼の色。
側にいなくても、いつも自分を守ってくれる人。
そのネックレスに勇気をもらったシルヴィアは自分と同じ濃紺の瞳を真っ直ぐ見て言葉を紡ぐ。
「お父様。お兄様の仕事ぶり、キチンと見てくださいませね。お兄様程素晴らしい方はおりません」
シルヴィアは遠目でルキを捉えて、父にそう話かける。
「お父様。お兄様がいくら優秀だと言っても、そろそろ我が家にも女主人が必要だと思いませんか?」
ルキの多忙や負担は年を重ねる事に増えている。シルヴィアの問いかけを聞き、驚いたように彼女を見たルシファーは、
「シルヴィア、お前はルキの婚姻に反対していただろう?」
意外そうにそう言った。
「お兄様が幸せになれない婚姻に反対していただけです。お兄様が心穏やかに、幸せになられるなら私に異論などあろうはずもございません」
だがシルヴィアは笑顔を浮かべ、キッパリと言い切った。
シルヴィアの後押しにルシファーは目を細める。
「……変わった、な。シルヴィア」
シルヴィアの今までの癇癪や妨害の報告はルシファーの耳にも入っている。だが、ルキが放っている以上ルシファーも諌めることすらしなかった。
そのシルヴィアが初めてルキの婚姻に対し、好意的な態度を見せた。それだけではなく、彼女は来賓に誠意を示し、社交性を発揮して公爵令嬢として渡り歩いてみせた。まだ拙さはあるが、驚くべき成長ぶりだ。
「もし、私が変わったと言うのなら、それは今お兄様の傍にいる魔法使いのおかげですわ」
シルヴィアはにこやかに笑って、
「私はお兄様の決断を支持します」
父に自分の意思をはっきりと伝えた。
「……そう、か」
ルシファーは少し思案し、
「今のシルヴィアが言うのなら、前向きに検討してもいいかもしれないな」
その言葉にシルヴィアは内心ガッツポーズを決める。
自分が推したベルの事を父が女主人として前向きに検討すると言った。これで社交界にまことしやかに流れる噂はともかく、きっとベルが追い出される事はない。
「ぜひ、そうなさってください」
シルヴィアは明るい声で父に向かって念を押すようにそう言った。
今まで気にかけてくれる様子などなかった父に褒められた上、自分の言葉を聞いてくれた。
だから良かったと安堵するシルヴィアは気づかなかった。
父が向ける視線はルキではなく、その隣にいるエステル王女を捉えているのだということに。
それだけ今回の外交に力を入れているのだと理解できたし、それに兄が関わっているという事をシルヴィアは心から誇らしく思う。
ナジェリー王国の王女様達との挨拶はわずかな時間だった。それでもその瞬間、シルヴィアは公爵令嬢として精一杯綺麗に礼を尽くした。
お茶会でやり込められたアネッサ王女は少しだけ驚いた顔をして、興味深そうな視線を寄越したがにこやかに笑って見せた。
今、自分がすべき事は攻撃でも牽制でもない。この国の貴族の一員として、彼女達を歓迎しているのだと示すことだから。
「……大きく、なったな。シルヴィア」
夜会の挨拶周りが一通り済んだ所で、シルヴィアの父である現ブルーノ公爵、ルシファーがそう声をかけて来た。
「ええ、時は確実に流れておりますので」
「いつの間に、こんなに大きくなったんだろうな」
「お父様が領地経営にご尽力なされている間に、ですわ」
「……嫌味も上手くなったな」
「いいえ、本心です」
シルヴィアはそっとネックレスに触れる。自分とルキと同じ眼の色。
側にいなくても、いつも自分を守ってくれる人。
そのネックレスに勇気をもらったシルヴィアは自分と同じ濃紺の瞳を真っ直ぐ見て言葉を紡ぐ。
「お父様。お兄様の仕事ぶり、キチンと見てくださいませね。お兄様程素晴らしい方はおりません」
シルヴィアは遠目でルキを捉えて、父にそう話かける。
「お父様。お兄様がいくら優秀だと言っても、そろそろ我が家にも女主人が必要だと思いませんか?」
ルキの多忙や負担は年を重ねる事に増えている。シルヴィアの問いかけを聞き、驚いたように彼女を見たルシファーは、
「シルヴィア、お前はルキの婚姻に反対していただろう?」
意外そうにそう言った。
「お兄様が幸せになれない婚姻に反対していただけです。お兄様が心穏やかに、幸せになられるなら私に異論などあろうはずもございません」
だがシルヴィアは笑顔を浮かべ、キッパリと言い切った。
シルヴィアの後押しにルシファーは目を細める。
「……変わった、な。シルヴィア」
シルヴィアの今までの癇癪や妨害の報告はルシファーの耳にも入っている。だが、ルキが放っている以上ルシファーも諌めることすらしなかった。
そのシルヴィアが初めてルキの婚姻に対し、好意的な態度を見せた。それだけではなく、彼女は来賓に誠意を示し、社交性を発揮して公爵令嬢として渡り歩いてみせた。まだ拙さはあるが、驚くべき成長ぶりだ。
「もし、私が変わったと言うのなら、それは今お兄様の傍にいる魔法使いのおかげですわ」
シルヴィアはにこやかに笑って、
「私はお兄様の決断を支持します」
父に自分の意思をはっきりと伝えた。
「……そう、か」
ルシファーは少し思案し、
「今のシルヴィアが言うのなら、前向きに検討してもいいかもしれないな」
その言葉にシルヴィアは内心ガッツポーズを決める。
自分が推したベルの事を父が女主人として前向きに検討すると言った。これで社交界にまことしやかに流れる噂はともかく、きっとベルが追い出される事はない。
「ぜひ、そうなさってください」
シルヴィアは明るい声で父に向かって念を押すようにそう言った。
今まで気にかけてくれる様子などなかった父に褒められた上、自分の言葉を聞いてくれた。
だから良かったと安堵するシルヴィアは気づかなかった。
父が向ける視線はルキではなく、その隣にいるエステル王女を捉えているのだということに。