結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「次期公爵様。お手伝い頂いてもよろしいでしょうか?」
シルヴィアからミシェルを預かったあと、ベルはルキにそう願い出る。
ルキに頼みミシンと裁縫道具と布などを使用人たちに用意してもらい、
「シルヴィアお嬢様の一番お気に入りのドレスを教えていただけますか?」
と頼みドレスを拝借したあと、似たような色合いの布地やレースを揃えてもらった。
すぐ材料が揃うことに、公爵家すごいなと素直に感動する。
「何をする気なんだ?」
材料を並べて作業を開始したベルにルキは話しかける。
「これはシルヴィアお嬢様にとって、替えのきかない宝物なんですよ」
ベルは手元から目を離さず、ルキに答える。
「他の誰でもない、あなたにもらったものだから」
室内に布を断つハサミの音が響く。
「何で、君はここまでシルにしてやるんだ。ずっとシルの癇癪に付き合わされて、今日は泥棒扱いまでされたのに」
それを聞きながら、不思議そうにルキがそう尋ねてくる。
ベルは真剣な眼差しで作業を続けながら、
「大好きなお兄ちゃんを取られたくないって気持ち、どうして分かりませんかねぇ」
呆れた口調でそういった。
「寂しいに、決まってるじゃないですか。まだ12ですよ。どれだけ使用人がいたって、家族の代わりになれるわけないでしょ」
ベルはテディベアを修繕しながらルキに気づいて欲しかった答えを紡いでいく。
「癇癪? 呆れた。どこの馬の骨とも知らない女が、いきなりやって来て婚約者だなんて名乗ったら、撃退したくなるでしょう。しかも散々女性に嫌な思いさせられたせいで、女性嫌いとして有名なあなたが、自分の意思ではなく婚約させられそう、ともなれば当然の反応です」
気づいてないのはあなただけです、とため息をついたベルは、
「シルヴィアお嬢様はずっと大好きなお兄ちゃんを守ってたんですよ」
一度だけ手を止めてルキのほうに視線を向けると優しい口調でそう言った。
「物事には理由があるんです。どんな事でも。例えあなたにとっては取るに足らない、理解を超える事だったとしても」
作業を再開したベルは、慣れた様子で手を動かしていく。
「ちゃんと、目を見て話してあげてください。それは、あなたにしかできない事です」
「……どうして」
ベルの言葉に息を呑んだルキに、ベルはクスッと笑う。
「分かりますよ、私も"妹"ですから」
無愛想を顔に貼り付けた、少し過保護で優しい兄を思い浮かべて、ベルはそう言って笑った。
時間がかかるので、もう休まれていいですよと声をかけたのに、差し支えなければ作業を見させて欲しいと言われ、ルキに見られながらベルはテディベアの修繕を行なった。
特に会話もなく、静かに夜が更けていく。
「できた」
ベルがようやくそう告げたときにはもう、空が明るくなっていて、窓から入る光の眩しさに目が痛くなる。
「あなたから渡してあげてください。初めてこれを贈ったときみたいに」
ベルはそう言ってルキにテディベアを手渡す。
完成したミシェルは、シルヴィアの一番お気に入りのドレスとお揃いの装いをしていた。
シルヴィアからミシェルを預かったあと、ベルはルキにそう願い出る。
ルキに頼みミシンと裁縫道具と布などを使用人たちに用意してもらい、
「シルヴィアお嬢様の一番お気に入りのドレスを教えていただけますか?」
と頼みドレスを拝借したあと、似たような色合いの布地やレースを揃えてもらった。
すぐ材料が揃うことに、公爵家すごいなと素直に感動する。
「何をする気なんだ?」
材料を並べて作業を開始したベルにルキは話しかける。
「これはシルヴィアお嬢様にとって、替えのきかない宝物なんですよ」
ベルは手元から目を離さず、ルキに答える。
「他の誰でもない、あなたにもらったものだから」
室内に布を断つハサミの音が響く。
「何で、君はここまでシルにしてやるんだ。ずっとシルの癇癪に付き合わされて、今日は泥棒扱いまでされたのに」
それを聞きながら、不思議そうにルキがそう尋ねてくる。
ベルは真剣な眼差しで作業を続けながら、
「大好きなお兄ちゃんを取られたくないって気持ち、どうして分かりませんかねぇ」
呆れた口調でそういった。
「寂しいに、決まってるじゃないですか。まだ12ですよ。どれだけ使用人がいたって、家族の代わりになれるわけないでしょ」
ベルはテディベアを修繕しながらルキに気づいて欲しかった答えを紡いでいく。
「癇癪? 呆れた。どこの馬の骨とも知らない女が、いきなりやって来て婚約者だなんて名乗ったら、撃退したくなるでしょう。しかも散々女性に嫌な思いさせられたせいで、女性嫌いとして有名なあなたが、自分の意思ではなく婚約させられそう、ともなれば当然の反応です」
気づいてないのはあなただけです、とため息をついたベルは、
「シルヴィアお嬢様はずっと大好きなお兄ちゃんを守ってたんですよ」
一度だけ手を止めてルキのほうに視線を向けると優しい口調でそう言った。
「物事には理由があるんです。どんな事でも。例えあなたにとっては取るに足らない、理解を超える事だったとしても」
作業を再開したベルは、慣れた様子で手を動かしていく。
「ちゃんと、目を見て話してあげてください。それは、あなたにしかできない事です」
「……どうして」
ベルの言葉に息を呑んだルキに、ベルはクスッと笑う。
「分かりますよ、私も"妹"ですから」
無愛想を顔に貼り付けた、少し過保護で優しい兄を思い浮かべて、ベルはそう言って笑った。
時間がかかるので、もう休まれていいですよと声をかけたのに、差し支えなければ作業を見させて欲しいと言われ、ルキに見られながらベルはテディベアの修繕を行なった。
特に会話もなく、静かに夜が更けていく。
「できた」
ベルがようやくそう告げたときにはもう、空が明るくなっていて、窓から入る光の眩しさに目が痛くなる。
「あなたから渡してあげてください。初めてこれを贈ったときみたいに」
ベルはそう言ってルキにテディベアを手渡す。
完成したミシェルは、シルヴィアの一番お気に入りのドレスとお揃いの装いをしていた。