結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
疲れもあるのだろうが、やはり何かを盛られたのかもしれない。念の為朝一で医者にかかれるように執事長に一報入れておこうと決める。
そんな彼の寝顔を見ながらベルは、
「ごめん、ね。ルキ」
そう小さくつぶやく。
これだけ一途に想われたらいくら自分が色恋沙汰に鈍くても流石にときめくし心が動く。だけど、彼に応えるわけにはいかないのだ。
「私にあなたを守れるだけの力が有ったら良かったのに、な」
生まれや血筋など、自分ではどうしようもない部分を羨む日が来るとは思わなかった。
ベルはそっとポケットから取り出した手紙を見つめる。
差し出し人はルシファー・ブルーノ公爵。
そこには簡潔に婚約破棄の要求と報酬と言う名の慰謝料として白金貨300枚の相殺、従わない場合ストラル伯爵領に対する制裁を仄めかす内容が書かれていた。
これが自分に届いたと言う事はルキに相応しい誰かが見つかった、と言うことだろう。
「わざわざ、ヒトの過去を暴かなくたって、身の程くらい弁えているわ」
ぐしゃぐしゃに握り潰した紙にため息をついたベルは、
「ごめん、私も結局優しいあなたを傷つける」
眠るルキに謝った。
ルキが割り切れる程器用なタイプではないと分かっていたのに、距離の取り方を誤った。
結果、彼を傷つけることになると分かっていたのに、自分から手を離せなかった。
「ごめん、ルキ。あなたを選べなくて、ごめん……なさい」
普通の可愛い令嬢達のように、綺麗な場所で誰かに守られて、当たり前に愛し尽くせる生き方はベルには選べない。
大きな権力の前にそうできるだけの力が自分にはないのだから。
「私には、なりふり構わず恋や愛に全部を捧げる生き方はできないや」
守りたいと思ったモノがある。
手を差し伸べてくれた愛する家族。その人達が大切にしている、必死で立て直した領地とそこに生きる人達。
それを守ることの方が恋をするより、愛を語らうよりベルには遥かに重要な事だった。
「私は誰かに愛されるシンデレラより、誰かを助けられる魔法使いになりたいの」
配役は、一つしか選べない。
「私は、あなたの魔法使いになれたかな?」
眠るルキの顔にかかる髪をそっとどけ、ベルは静かにそう問いかける。
「ちょっとでも、ルキの支えになれてたら嬉しいな」
魔法の使えない自分には、できる事なんて限られているけれど、残された時間でせめて彼が心穏やかにこれから先を生きる相手と向き合えるようにしていこうと決める。
「好きになってくれて、ありがとう。私も、ルキの事が……」
言いかけて、ベルは言葉を閉ざした。これから彼を傷つける自分には、そこから先を口にする資格がない。
この関係に終わりがある事は最初から分かっていた。
偽物の恋愛劇の幕引きは、すぐそこだ。
ルキの本物の婚約者が誰かは知らないが、その人がルキとそしてできればシルヴィアにとって安息をもたらしてくれる相手だといいなとベルは静かに祈って部屋を後にした。
そんな彼の寝顔を見ながらベルは、
「ごめん、ね。ルキ」
そう小さくつぶやく。
これだけ一途に想われたらいくら自分が色恋沙汰に鈍くても流石にときめくし心が動く。だけど、彼に応えるわけにはいかないのだ。
「私にあなたを守れるだけの力が有ったら良かったのに、な」
生まれや血筋など、自分ではどうしようもない部分を羨む日が来るとは思わなかった。
ベルはそっとポケットから取り出した手紙を見つめる。
差し出し人はルシファー・ブルーノ公爵。
そこには簡潔に婚約破棄の要求と報酬と言う名の慰謝料として白金貨300枚の相殺、従わない場合ストラル伯爵領に対する制裁を仄めかす内容が書かれていた。
これが自分に届いたと言う事はルキに相応しい誰かが見つかった、と言うことだろう。
「わざわざ、ヒトの過去を暴かなくたって、身の程くらい弁えているわ」
ぐしゃぐしゃに握り潰した紙にため息をついたベルは、
「ごめん、私も結局優しいあなたを傷つける」
眠るルキに謝った。
ルキが割り切れる程器用なタイプではないと分かっていたのに、距離の取り方を誤った。
結果、彼を傷つけることになると分かっていたのに、自分から手を離せなかった。
「ごめん、ルキ。あなたを選べなくて、ごめん……なさい」
普通の可愛い令嬢達のように、綺麗な場所で誰かに守られて、当たり前に愛し尽くせる生き方はベルには選べない。
大きな権力の前にそうできるだけの力が自分にはないのだから。
「私には、なりふり構わず恋や愛に全部を捧げる生き方はできないや」
守りたいと思ったモノがある。
手を差し伸べてくれた愛する家族。その人達が大切にしている、必死で立て直した領地とそこに生きる人達。
それを守ることの方が恋をするより、愛を語らうよりベルには遥かに重要な事だった。
「私は誰かに愛されるシンデレラより、誰かを助けられる魔法使いになりたいの」
配役は、一つしか選べない。
「私は、あなたの魔法使いになれたかな?」
眠るルキの顔にかかる髪をそっとどけ、ベルは静かにそう問いかける。
「ちょっとでも、ルキの支えになれてたら嬉しいな」
魔法の使えない自分には、できる事なんて限られているけれど、残された時間でせめて彼が心穏やかにこれから先を生きる相手と向き合えるようにしていこうと決める。
「好きになってくれて、ありがとう。私も、ルキの事が……」
言いかけて、ベルは言葉を閉ざした。これから彼を傷つける自分には、そこから先を口にする資格がない。
この関係に終わりがある事は最初から分かっていた。
偽物の恋愛劇の幕引きは、すぐそこだ。
ルキの本物の婚約者が誰かは知らないが、その人がルキとそしてできればシルヴィアにとって安息をもたらしてくれる相手だといいなとベルは静かに祈って部屋を後にした。