結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
その19、伯爵令嬢と婚約破棄。
執務室で難しい顔をしているルキに、
「お疲れだな、ルキ」
とレインが話しかけてきた。
「疲れてはないんだけど、予想とは違う答えが返ってきたから」
疑問符を浮かべるレインにルキはため息をついて、手紙を見せる。
差出人はヴィンセント・ブルーノ。ルキの祖父からだった。
そこには簡潔に、
『探し物は現時点でこの世のどこにも存在しない』
と書かれていた。
「探し物?」
「俺の予想ではてっきり祖父様が持っていると思ってたんだけどなぁ」
ルキはため息を吐くと自身が持っている懐中時計に視線を落とす。
「珍しいな。ルキがそれ持ち歩いてるの」
「まぁ基本的に必要時しか持ち歩かないよ。これは公爵家の身分証みたいなものだから」
手の平でその懐中時計を弄んだルキはくるりと時計の裏を見る。そこには公爵家の家紋が刻まれていた。
「で、探し物って何?」
ルキの様子を見ながら、結局疑問が解消されていないことに気づいたレインは再度ルキに尋ねるが、
「……んーガラスの靴、みたいなものかな?」
ルキは曖昧に答えて肩をすくめただけだった。
ルキは懐中時計を仕舞いながら思う。
それは"もしかしたら"という可能性の話。
ストラル領でベルの話を聞いてから、ずっと疑問に思っていた事がある。
祖父は同情や慈善事業で白金貨300枚もの大金を払う人間ではない。ましてや命を狙われて身を隠している最中、危険を冒してまで無価値な子どもを無意味に救ったりしない。
しかもその時だけでなく、現在にいたるまで関わりを持ち続けているのなら、祖父にとってはそれだけの価値がベルにあったのではないか、と考える方が自然だ。
それに庶民が細工の施された懐中時計を所持していた、というのも気になる。百合の花と剣。どこかの家紋かと思い照合して見たが、それらしい組み合わせが見当たらなかった。
何故、祖父がベルを自分の風除けに選んだのか、その本当の理由が知りたい。
素直に尋ねたところではぐらかされるのが関の山と自分で調べていたのだが、ついに手詰まりになってしまいルキはため息をつく。
「ガラスの靴、ねぇ。じゃあ復元は難しくない? ガラスの破片なんて他と混ぜちゃえば見分けつかないだろ」
「どういうこと?」
「いや、だって"現時点"って事は、過去にはそれは確かにあったと同義だろ?」
レインにそう言われ、ルキはまじまじと手紙を見つめる。
『あなたの尺度で測られても困ります』
と契約婚約者として本採用した日に言われたベルの言葉を思い出す。
弾き出した答えはなんとも彼女らしくて、ルキは肩を震わせて笑い出す。
「ガラスの靴を叩き割るシンデレラ、か」
おかしそうに笑ったルキは、
「レイン、参考になった。あとは答え合わせをしてみるよ」
これが合っていれば祖父を味方にできるかもしれないと手繰り寄せた細い希望の糸を握り、レインに礼を言った。
「お疲れだな、ルキ」
とレインが話しかけてきた。
「疲れてはないんだけど、予想とは違う答えが返ってきたから」
疑問符を浮かべるレインにルキはため息をついて、手紙を見せる。
差出人はヴィンセント・ブルーノ。ルキの祖父からだった。
そこには簡潔に、
『探し物は現時点でこの世のどこにも存在しない』
と書かれていた。
「探し物?」
「俺の予想ではてっきり祖父様が持っていると思ってたんだけどなぁ」
ルキはため息を吐くと自身が持っている懐中時計に視線を落とす。
「珍しいな。ルキがそれ持ち歩いてるの」
「まぁ基本的に必要時しか持ち歩かないよ。これは公爵家の身分証みたいなものだから」
手の平でその懐中時計を弄んだルキはくるりと時計の裏を見る。そこには公爵家の家紋が刻まれていた。
「で、探し物って何?」
ルキの様子を見ながら、結局疑問が解消されていないことに気づいたレインは再度ルキに尋ねるが、
「……んーガラスの靴、みたいなものかな?」
ルキは曖昧に答えて肩をすくめただけだった。
ルキは懐中時計を仕舞いながら思う。
それは"もしかしたら"という可能性の話。
ストラル領でベルの話を聞いてから、ずっと疑問に思っていた事がある。
祖父は同情や慈善事業で白金貨300枚もの大金を払う人間ではない。ましてや命を狙われて身を隠している最中、危険を冒してまで無価値な子どもを無意味に救ったりしない。
しかもその時だけでなく、現在にいたるまで関わりを持ち続けているのなら、祖父にとってはそれだけの価値がベルにあったのではないか、と考える方が自然だ。
それに庶民が細工の施された懐中時計を所持していた、というのも気になる。百合の花と剣。どこかの家紋かと思い照合して見たが、それらしい組み合わせが見当たらなかった。
何故、祖父がベルを自分の風除けに選んだのか、その本当の理由が知りたい。
素直に尋ねたところではぐらかされるのが関の山と自分で調べていたのだが、ついに手詰まりになってしまいルキはため息をつく。
「ガラスの靴、ねぇ。じゃあ復元は難しくない? ガラスの破片なんて他と混ぜちゃえば見分けつかないだろ」
「どういうこと?」
「いや、だって"現時点"って事は、過去にはそれは確かにあったと同義だろ?」
レインにそう言われ、ルキはまじまじと手紙を見つめる。
『あなたの尺度で測られても困ります』
と契約婚約者として本採用した日に言われたベルの言葉を思い出す。
弾き出した答えはなんとも彼女らしくて、ルキは肩を震わせて笑い出す。
「ガラスの靴を叩き割るシンデレラ、か」
おかしそうに笑ったルキは、
「レイン、参考になった。あとは答え合わせをしてみるよ」
これが合っていれば祖父を味方にできるかもしれないと手繰り寄せた細い希望の糸を握り、レインに礼を言った。