結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
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運命、と言うものがあるのならそれは偶然の巡り合わせで成り立つものではない。
全ては必然なのだ。カラカラと歯車同士が噛み合って、シナリオを動かす傍らには必ずそれを操る支配者がいる。
幾重にも様々な思惑が交差して、運命は形作られていくのだ。
万華鏡に入れられた小さな石たちを愛でながら、エステルはそんな事を考える。
そして、自分は誰かが作った運命に踊らされる側の人間だ。
「……お姉様は、残酷だわ」
ポツリ、と漏らしたエステルのつぶやきに応える声はない。
侍女たちも全て下げてしまったこの部屋には今エステルしかおらず、あとは物言わぬお気に入りの鉱物たちが陳列しているだけなのだから当然なのだが、こうも静かだと否が応でも頭を過る。
「……私は、見ているだけで良かったのに」
覗き込んだ万華鏡に映る形がエステルの手の動きで変わる。
「いいえ、嘘はいけないわね。見ているだけでいいと思っていたのは初めだけ。もしかしたらなんて望んでしまったわ」
その証拠に姉の行動に気づかないふりをして、本当にそうなればいいのになんて他人任せの運命がもたらされるのを待っている自分がいる。
「……ルキ様」
ポツリと本日は会う予定のない彼の名前を口にする。
言葉にすればどうしようもなく恋しさが募った。
本日彼はナジェリー王国の大使達と今後の国同士の交流や取引についての会談を行なっているはずだ。
視察やエスコートが必要なこの国の王族や貴族達との親睦という公務がなければ、ルキがエステルの前に現れることはない。
ルキがエステルに構ってくれるのは、それが彼の仕事だからだ。
ルキとエステルは瞬くに社交界に広がったロマンス小説になぞらえた噂のような関係では無い。
恋慕っているのは自分だけ。分かっているのに、それでもどうしようもなく彼に会いたかった。
「私、こんなに浅ましい人間だったのね」
王族である以上いつか誰かに嫁がなくてはならない。
石ばかり見つめる変わり者の姫に求婚する者なんていなかったから、特に色恋に興味はなく父が決めた相手なら誰でもいいとさえ思っていた。
それなのに、この国でルキに出会ってしまった。
初めは鉱物や廃石に興味を持ってくれたのが嬉しくて、その話ができるのが楽しくてルキに会いたいと思っていただけだった。
彼のような影響力のある人が興味を持ってくれたら、もっと廃石活用が活発になる。
そんな打算もあった。
だが、ルキと時間を共にすればした分だけ、彼の内面に惹かれていった。
ルキは氷の貴公子というよりも、まるでブルーガーネットのような人だとエステルは思う。
ブルーガーネットは光源によって色味を青から赤に変える。
そんな風に、場面場面で様々な顔を持っているルキは魅力的な人だった。
そんなルキの事を好きになるのに、時間はかからなかった。たとえ、彼に婚約者がいると分かっていても。
「私、お姉様を止められないんじゃない。止めたくないんだわ」
とても優しい目をして婚約者の話をするルキの横顔を見ながら、もし姉の企て程度で崩れてしまう関係なら、壊れてしまえばいいと願ってしまった。
とてつもない罪悪感を覚えたのに、一方で本当にそうなればいいのにと思ってしまう。
誰かを踏みつけた上にある幸せは本当に幸せと呼べるのだろうかと思いながらも、彼が欲しいと望む自分と板挟みになったエステルは身動きの取れないまま、ただ誰かが作った運命に流されることにした。
運命、と言うものがあるのならそれは偶然の巡り合わせで成り立つものではない。
全ては必然なのだ。カラカラと歯車同士が噛み合って、シナリオを動かす傍らには必ずそれを操る支配者がいる。
幾重にも様々な思惑が交差して、運命は形作られていくのだ。
万華鏡に入れられた小さな石たちを愛でながら、エステルはそんな事を考える。
そして、自分は誰かが作った運命に踊らされる側の人間だ。
「……お姉様は、残酷だわ」
ポツリ、と漏らしたエステルのつぶやきに応える声はない。
侍女たちも全て下げてしまったこの部屋には今エステルしかおらず、あとは物言わぬお気に入りの鉱物たちが陳列しているだけなのだから当然なのだが、こうも静かだと否が応でも頭を過る。
「……私は、見ているだけで良かったのに」
覗き込んだ万華鏡に映る形がエステルの手の動きで変わる。
「いいえ、嘘はいけないわね。見ているだけでいいと思っていたのは初めだけ。もしかしたらなんて望んでしまったわ」
その証拠に姉の行動に気づかないふりをして、本当にそうなればいいのになんて他人任せの運命がもたらされるのを待っている自分がいる。
「……ルキ様」
ポツリと本日は会う予定のない彼の名前を口にする。
言葉にすればどうしようもなく恋しさが募った。
本日彼はナジェリー王国の大使達と今後の国同士の交流や取引についての会談を行なっているはずだ。
視察やエスコートが必要なこの国の王族や貴族達との親睦という公務がなければ、ルキがエステルの前に現れることはない。
ルキがエステルに構ってくれるのは、それが彼の仕事だからだ。
ルキとエステルは瞬くに社交界に広がったロマンス小説になぞらえた噂のような関係では無い。
恋慕っているのは自分だけ。分かっているのに、それでもどうしようもなく彼に会いたかった。
「私、こんなに浅ましい人間だったのね」
王族である以上いつか誰かに嫁がなくてはならない。
石ばかり見つめる変わり者の姫に求婚する者なんていなかったから、特に色恋に興味はなく父が決めた相手なら誰でもいいとさえ思っていた。
それなのに、この国でルキに出会ってしまった。
初めは鉱物や廃石に興味を持ってくれたのが嬉しくて、その話ができるのが楽しくてルキに会いたいと思っていただけだった。
彼のような影響力のある人が興味を持ってくれたら、もっと廃石活用が活発になる。
そんな打算もあった。
だが、ルキと時間を共にすればした分だけ、彼の内面に惹かれていった。
ルキは氷の貴公子というよりも、まるでブルーガーネットのような人だとエステルは思う。
ブルーガーネットは光源によって色味を青から赤に変える。
そんな風に、場面場面で様々な顔を持っているルキは魅力的な人だった。
そんなルキの事を好きになるのに、時間はかからなかった。たとえ、彼に婚約者がいると分かっていても。
「私、お姉様を止められないんじゃない。止めたくないんだわ」
とても優しい目をして婚約者の話をするルキの横顔を見ながら、もし姉の企て程度で崩れてしまう関係なら、壊れてしまえばいいと願ってしまった。
とてつもない罪悪感を覚えたのに、一方で本当にそうなればいいのにと思ってしまう。
誰かを踏みつけた上にある幸せは本当に幸せと呼べるのだろうかと思いながらも、彼が欲しいと望む自分と板挟みになったエステルは身動きの取れないまま、ただ誰かが作った運命に流されることにした。