結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
その20、伯爵令嬢と契約満了。
ルキは使用人達の静止を振り切って別邸に乗り込む。
久しぶりに対峙した父の目は全く動じることなくルキを捉え、一瞥くれただけですぐに視線は書類に戻った。
「ベルに、何をしたのですか!?」
「久しぶりに会ったと言うのに、随分な言いがかりだな」
「よくもぬけぬけと」
怒りで我を忘れている息子にため息を吐いたルシファーは、
「何が問題だ。アレを嫁にするわけにはいかないことくらい、お前も分かっているだろう」
「ベルを物のように扱うのはやめて頂きたい。彼女は」
「誤解があるようだからはっきり言っておく。売り込んで来たのは彼女の方だ。自分を買わないか? っと。だから望み通り買ってやったんだ。これは彼女と私の間で結ばれた正当な取引だ。お前が口を挟む事ではない」
言いかけたルキの主張を遮って、ルシファーは淡々とした口調でそう言った。
「ベルのどこが金遣いの荒い阿婆擦れなんですか! あなたが噂をばら撒いているのは分かっているんです」
「さぁ? 身に覚えがないな。居合わせた人間が勝手に吹聴しているんじゃないのか?」
ここで何を喚いたところで暖簾に腕押し。いくら噂の広がりが早過ぎると言えど、父がやったという証拠はなく、またあったところで一度人の口に乗った彼女への誹謗中傷は消えない。
「自分で言っていたんだろ。金のためだと。いい加減、目を覚ませ」
公爵家から対価はすでに支払い済みだとベルは言っていた。
だが、ベルが独立資金欲しさに自分を安売りするとはルキには到底思えない。
それくらい、きっと彼女なら嬉々として自分で稼ぎ出す。
「ベルは紅茶一杯素直に奢らせてくれない、ドレスだって理由がなければもらってくれないような人です。使用人に混ざって労働で滞在費を払い、その上で生活費を入れるそんな人のどこが金遣いが荒いと? 一度も贅沢なんて彼女は望まなかった。仮の婚約者に対しても誠実に向き合う、そんな人がっ」
「だから、なんだ? それで? 気に入っているからと愛人にでもする気か?」
冷たい声でそう言われ、ルキは怒りに満ちた目で父を睨む。
「母親に似るのは、その容姿だけにしてくれ」
ため息交じりにそう言ったルシファーは、
「お前に縁談が来ている。相手はエステル王女だ。受けなさい」
そう言ってルキに見合いの書類を差し出す。
「お断りします」
「シルヴィアも言っていた。そろそろ女主人が必要だ、と。エステル王女なら公爵夫人としてもシルヴィアの義姉としても申し分ない。公爵家を思うなら、妹を思うなら受けなさい」
間髪入れずに断ったルキの言葉に耳を傾ける事なくルシファーは繰り返し受けるように伝える。
「貴族の結婚に余計な感情はいらない。それでも結婚を急かさず待っていたのは、お前に悪いと思っていたからだ。夜会でのお前のエステル王女への態度を見た。エステル王女なら問題ないだろう」
人の噂になるほど仲睦まじく映るその様子なら、初めは真似事でもいつか本当にそうなる日が来るだろう。
「ルキ。上流階級には上流階級に相応しい血筋の者同士の婚姻がいいに決まっている。同じ失敗を繰り返さないでくれ」
ルシファーはそれが正解とばかりにルキに道を示す。
「……つまり、私とシルヴィアはあなたの失敗の結果生まれたと言いたいわけですね」
ルキは嘲笑し、そう言い返す。
その言葉に今まで無反応に近かった父の目に後悔の色が宿る。
「あなたの後悔を、私に押し付けないで頂きたい。私は、あなたの失敗の清算のために生きているわけではありません」
ルキはその目を見てはっきり告げると、これ以上話しても無駄だと踵を返し部屋を後にした。
久しぶりに対峙した父の目は全く動じることなくルキを捉え、一瞥くれただけですぐに視線は書類に戻った。
「ベルに、何をしたのですか!?」
「久しぶりに会ったと言うのに、随分な言いがかりだな」
「よくもぬけぬけと」
怒りで我を忘れている息子にため息を吐いたルシファーは、
「何が問題だ。アレを嫁にするわけにはいかないことくらい、お前も分かっているだろう」
「ベルを物のように扱うのはやめて頂きたい。彼女は」
「誤解があるようだからはっきり言っておく。売り込んで来たのは彼女の方だ。自分を買わないか? っと。だから望み通り買ってやったんだ。これは彼女と私の間で結ばれた正当な取引だ。お前が口を挟む事ではない」
言いかけたルキの主張を遮って、ルシファーは淡々とした口調でそう言った。
「ベルのどこが金遣いの荒い阿婆擦れなんですか! あなたが噂をばら撒いているのは分かっているんです」
「さぁ? 身に覚えがないな。居合わせた人間が勝手に吹聴しているんじゃないのか?」
ここで何を喚いたところで暖簾に腕押し。いくら噂の広がりが早過ぎると言えど、父がやったという証拠はなく、またあったところで一度人の口に乗った彼女への誹謗中傷は消えない。
「自分で言っていたんだろ。金のためだと。いい加減、目を覚ませ」
公爵家から対価はすでに支払い済みだとベルは言っていた。
だが、ベルが独立資金欲しさに自分を安売りするとはルキには到底思えない。
それくらい、きっと彼女なら嬉々として自分で稼ぎ出す。
「ベルは紅茶一杯素直に奢らせてくれない、ドレスだって理由がなければもらってくれないような人です。使用人に混ざって労働で滞在費を払い、その上で生活費を入れるそんな人のどこが金遣いが荒いと? 一度も贅沢なんて彼女は望まなかった。仮の婚約者に対しても誠実に向き合う、そんな人がっ」
「だから、なんだ? それで? 気に入っているからと愛人にでもする気か?」
冷たい声でそう言われ、ルキは怒りに満ちた目で父を睨む。
「母親に似るのは、その容姿だけにしてくれ」
ため息交じりにそう言ったルシファーは、
「お前に縁談が来ている。相手はエステル王女だ。受けなさい」
そう言ってルキに見合いの書類を差し出す。
「お断りします」
「シルヴィアも言っていた。そろそろ女主人が必要だ、と。エステル王女なら公爵夫人としてもシルヴィアの義姉としても申し分ない。公爵家を思うなら、妹を思うなら受けなさい」
間髪入れずに断ったルキの言葉に耳を傾ける事なくルシファーは繰り返し受けるように伝える。
「貴族の結婚に余計な感情はいらない。それでも結婚を急かさず待っていたのは、お前に悪いと思っていたからだ。夜会でのお前のエステル王女への態度を見た。エステル王女なら問題ないだろう」
人の噂になるほど仲睦まじく映るその様子なら、初めは真似事でもいつか本当にそうなる日が来るだろう。
「ルキ。上流階級には上流階級に相応しい血筋の者同士の婚姻がいいに決まっている。同じ失敗を繰り返さないでくれ」
ルシファーはそれが正解とばかりにルキに道を示す。
「……つまり、私とシルヴィアはあなたの失敗の結果生まれたと言いたいわけですね」
ルキは嘲笑し、そう言い返す。
その言葉に今まで無反応に近かった父の目に後悔の色が宿る。
「あなたの後悔を、私に押し付けないで頂きたい。私は、あなたの失敗の清算のために生きているわけではありません」
ルキはその目を見てはっきり告げると、これ以上話しても無駄だと踵を返し部屋を後にした。