結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
ベルが金銭の要求の代わりに提示した条件は、ストラル伯爵領及びストラル伯爵家の経営する会社への不干渉、不可侵。通行料を支払っているにも関わらず、不当に公爵領を通過する権利を害さないことと言った当たり前の権利保証。
ざっくりまとめれば理由なくストラル伯爵領を脅かすことは2度とさせない、という内容だった。
ベルが目の前から消えるなら特にストラル伯爵家を害する必要もない。
安いくらいの要求に訝しげな視線を向けるルシファーに、最後にもう一つささやかなお願いですが、と言ったベルが要求したのは、ルシファーに家族との時間を作れというものだった。
生意気な、と思ったがベルの言い分も一部理解できるところはあった。
確かにシルヴィアも気付けばもう13歳を迎えようとしている。他人に用意させたバースデープレゼントと不自由しない金銭だけで彼女が育ったわけではない事くらいルシファーにも分かる。
了承を告げた瞬間、初めてベルは嬉しそうに笑った。
「ずっとお尋ねしたかったのですが、私はあなたに何か不利益をもたらしましたか?」
雑談のようにそう尋ねた彼女に首を振る。直接的な不利益をもたらされる程の関わりなど彼女とあるはずもない。
ただ気に入らないのだ。もともと身分の低い出自の怪しい人間が、伯爵令嬢を名乗り存在していることが。
不相応な身分を手にした人間はいつか自分は偉い人間で何をしてもよいのだと勘違いする。かつて妻だった彼女がそうであったように。
欲しがるままに与え続けたからか、金遣いは荒くなり、男遊びを覚え、家族を捨てた。そうなりうる女を、自分の家族に近づけたくない。ただそれだけだった。
「理由も分からず嫌われていたのでずっと気持ち悪かったんですよね。やっとスッキリしました。ご安心ください、次期公爵様にお目にかかることは2度とありませんので」
そのやり取りで初めてルシファーはベルが数年前彼女が外交省を不合格となった本当の背景を知っているのだと悟った。
だが、ベルはその話を聞いても責めるでも怒るでもなく、ああと納得した顔をして、
「私、未来の公爵夫人の座になど興味はないのです。私は自分で稼ぎたい、ただそれだけです」
そう言っただけで、あとはもうルシファーへの興味を失くしたように淡々とした対応をするだけだった。
偽物の婚約者との関係は清算させた。今は納得できずとも、これで良かったとルキにもいずれわかる日が来るとルシファーは思う。
「育ちの違う人間と一緒にいたってすれ違いが多すぎて、すぐダメになるに決まっている」
今は毛色の違いが珍しく、彼女の境遇に同情しそれを恋や愛などと混同しているだけだ。一時的な感情で、ルキに自分と同じ轍は踏ませたくない。
「従順で貴族らしく生きられる妻と家庭を作る方がずっと建設的で心穏やかに暮らせる。それがなぜ分からないのか」
お互いに義務と責任を背負った者同士、共通認識を持って人生を共にする方が、ルキにとっても楽なはずだ。
そういう生き方のできる人と家庭を持って欲しい。健全とは言い難い家で大人にならざるを得なかった息子に本来正しくあるべき形を与えたい。
それはルシファーなりの親心だった。
ざっくりまとめれば理由なくストラル伯爵領を脅かすことは2度とさせない、という内容だった。
ベルが目の前から消えるなら特にストラル伯爵家を害する必要もない。
安いくらいの要求に訝しげな視線を向けるルシファーに、最後にもう一つささやかなお願いですが、と言ったベルが要求したのは、ルシファーに家族との時間を作れというものだった。
生意気な、と思ったがベルの言い分も一部理解できるところはあった。
確かにシルヴィアも気付けばもう13歳を迎えようとしている。他人に用意させたバースデープレゼントと不自由しない金銭だけで彼女が育ったわけではない事くらいルシファーにも分かる。
了承を告げた瞬間、初めてベルは嬉しそうに笑った。
「ずっとお尋ねしたかったのですが、私はあなたに何か不利益をもたらしましたか?」
雑談のようにそう尋ねた彼女に首を振る。直接的な不利益をもたらされる程の関わりなど彼女とあるはずもない。
ただ気に入らないのだ。もともと身分の低い出自の怪しい人間が、伯爵令嬢を名乗り存在していることが。
不相応な身分を手にした人間はいつか自分は偉い人間で何をしてもよいのだと勘違いする。かつて妻だった彼女がそうであったように。
欲しがるままに与え続けたからか、金遣いは荒くなり、男遊びを覚え、家族を捨てた。そうなりうる女を、自分の家族に近づけたくない。ただそれだけだった。
「理由も分からず嫌われていたのでずっと気持ち悪かったんですよね。やっとスッキリしました。ご安心ください、次期公爵様にお目にかかることは2度とありませんので」
そのやり取りで初めてルシファーはベルが数年前彼女が外交省を不合格となった本当の背景を知っているのだと悟った。
だが、ベルはその話を聞いても責めるでも怒るでもなく、ああと納得した顔をして、
「私、未来の公爵夫人の座になど興味はないのです。私は自分で稼ぎたい、ただそれだけです」
そう言っただけで、あとはもうルシファーへの興味を失くしたように淡々とした対応をするだけだった。
偽物の婚約者との関係は清算させた。今は納得できずとも、これで良かったとルキにもいずれわかる日が来るとルシファーは思う。
「育ちの違う人間と一緒にいたってすれ違いが多すぎて、すぐダメになるに決まっている」
今は毛色の違いが珍しく、彼女の境遇に同情しそれを恋や愛などと混同しているだけだ。一時的な感情で、ルキに自分と同じ轍は踏ませたくない。
「従順で貴族らしく生きられる妻と家庭を作る方がずっと建設的で心穏やかに暮らせる。それがなぜ分からないのか」
お互いに義務と責任を背負った者同士、共通認識を持って人生を共にする方が、ルキにとっても楽なはずだ。
そういう生き方のできる人と家庭を持って欲しい。健全とは言い難い家で大人にならざるを得なかった息子に本来正しくあるべき形を与えたい。
それはルシファーなりの親心だった。