結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「それで、廃籍? そんな無茶苦茶な」
「無茶苦茶を通す人だったんだよ。そのせいでこの国はやたらと王族が多くて、王女達の嫁ぎ先を探すのもずいぶん苦労したんだよ」
肩を竦めてそういったヴィンセントは、
「相手が悪かった。当時先代陛下が敵対している派閥の子息。通じただけでなくその上懐妊した。他国に嫁ぐ予定だったが政略結婚の相手にその事実を知られるわけにもいかず、急病で死んだことにして幽閉するしかなかった」
争いの種になる子どもは本来なら生まれてすぐ殺さなければならなかった。
「でもまぁ姫様の人徳というか、彼女に同情的な声も多くてそうならなかった。代わりに生まれた子は身分の剥奪、本人に出自を隠したまま修道院に入れられた……までは良かったんだが、その後大規模な災害でその領地は壊滅的被害を受け生き残った難民は散り散りに。その子の行方は誰も分からなくなったんだ。生死も含めてね」
ずっと死んだと思われていたその子ども。誰に思い出されることもなく、時は流れていき陛下は代替わりした。
「姫様がね、死ぬ間際に私に頼んだんだ。内密にセレスティアを探してしかるべき身分の家で保護してくれないか、と」
誰もが死んだと思っていたその子を彼女は生きていると信じていた。病床で死期を悟って願ったのは何もしてやれなかった我が子の安全。
「彼女には随分助けられた。幽閉されていても聡明で、裏側から生涯国を支え続けた人の最期の願い。叶えられるなら叶えてあげたかった」
だが、何年も前に行方不明になったその子どもの足跡を秘密裏に辿ることは難しく、なんの収穫もないまま時間だけが過ぎていった。
「ストラル伯爵家でベルちゃんを見つけた時は正直驚いた。子どもの頃の彼女によく似ていたから」
その子はすでに亡くなっていたが、孫にあたる子が2人いる。どうにか彼らを公爵家で引き取れないかそう思ったのだが。
「キース君に他人の空似でない証拠は? と言われてね。引き取りを拒否された。本人が望まないのに公爵家にくれてやる気は毛頭ない、と」
仮にこの話が本当だとして、なぜわざわざ争いの渦中に弟妹を放り込まなくてはならないとまだ爵位を継いだばかりとは思えない青年は真っ向からそれを拒否した。
「ベルはこの話を知っているのですか?」
「話せるわけもないだろう。せめて懐中時計が無事なら証拠にもなったが、もうそれもこの世に存在しない」
「てっきり祖父様が回収されたのかと思いましたが」
だから初めにヴィンセントに手紙を書いた時懐中時計の行方を尋ねた。
現存するならばおそらく金に糸目をつけることなく回収しただろうから。
「ベルちゃんにどうやって売ったのか聞いたんだけどね。わざわざ叩いて壊して鉄屑に混ぜて売ったらしい。足がつかないように」
「……うん、だと思った。躊躇わないあたりがベルですねぇ」
ルキはクスクス笑ってあー本当に彼女らしいと笑う。
「だから、もっといいお家で生活してみない? って何度か遠回しに誘ってみたんだが、キース君の妹でいたいとはっきり断られてしまってね」
共に生活する中で健やかに育つ2人を見て、公爵家の実情も鑑み大人の事情で無理に引き離すのもベル達のためにならないとヴィンセントは彼女らを静かに見守る事にした。
「無茶苦茶を通す人だったんだよ。そのせいでこの国はやたらと王族が多くて、王女達の嫁ぎ先を探すのもずいぶん苦労したんだよ」
肩を竦めてそういったヴィンセントは、
「相手が悪かった。当時先代陛下が敵対している派閥の子息。通じただけでなくその上懐妊した。他国に嫁ぐ予定だったが政略結婚の相手にその事実を知られるわけにもいかず、急病で死んだことにして幽閉するしかなかった」
争いの種になる子どもは本来なら生まれてすぐ殺さなければならなかった。
「でもまぁ姫様の人徳というか、彼女に同情的な声も多くてそうならなかった。代わりに生まれた子は身分の剥奪、本人に出自を隠したまま修道院に入れられた……までは良かったんだが、その後大規模な災害でその領地は壊滅的被害を受け生き残った難民は散り散りに。その子の行方は誰も分からなくなったんだ。生死も含めてね」
ずっと死んだと思われていたその子ども。誰に思い出されることもなく、時は流れていき陛下は代替わりした。
「姫様がね、死ぬ間際に私に頼んだんだ。内密にセレスティアを探してしかるべき身分の家で保護してくれないか、と」
誰もが死んだと思っていたその子を彼女は生きていると信じていた。病床で死期を悟って願ったのは何もしてやれなかった我が子の安全。
「彼女には随分助けられた。幽閉されていても聡明で、裏側から生涯国を支え続けた人の最期の願い。叶えられるなら叶えてあげたかった」
だが、何年も前に行方不明になったその子どもの足跡を秘密裏に辿ることは難しく、なんの収穫もないまま時間だけが過ぎていった。
「ストラル伯爵家でベルちゃんを見つけた時は正直驚いた。子どもの頃の彼女によく似ていたから」
その子はすでに亡くなっていたが、孫にあたる子が2人いる。どうにか彼らを公爵家で引き取れないかそう思ったのだが。
「キース君に他人の空似でない証拠は? と言われてね。引き取りを拒否された。本人が望まないのに公爵家にくれてやる気は毛頭ない、と」
仮にこの話が本当だとして、なぜわざわざ争いの渦中に弟妹を放り込まなくてはならないとまだ爵位を継いだばかりとは思えない青年は真っ向からそれを拒否した。
「ベルはこの話を知っているのですか?」
「話せるわけもないだろう。せめて懐中時計が無事なら証拠にもなったが、もうそれもこの世に存在しない」
「てっきり祖父様が回収されたのかと思いましたが」
だから初めにヴィンセントに手紙を書いた時懐中時計の行方を尋ねた。
現存するならばおそらく金に糸目をつけることなく回収しただろうから。
「ベルちゃんにどうやって売ったのか聞いたんだけどね。わざわざ叩いて壊して鉄屑に混ぜて売ったらしい。足がつかないように」
「……うん、だと思った。躊躇わないあたりがベルですねぇ」
ルキはクスクス笑ってあー本当に彼女らしいと笑う。
「だから、もっといいお家で生活してみない? って何度か遠回しに誘ってみたんだが、キース君の妹でいたいとはっきり断られてしまってね」
共に生活する中で健やかに育つ2人を見て、公爵家の実情も鑑み大人の事情で無理に引き離すのもベル達のためにならないとヴィンセントは彼女らを静かに見守る事にした。