結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「でも、どうして急にそんなことを?」
きょとんとした顔で首を傾げるベルを見ながら、ルキはクスッと笑う。
「ベルの好みのタイプがストラル伯爵か弟のハルだと聞いてね。ハルの良さは分かっているが、ストラル伯爵はどうなのかなーって」
「……私の好みって……どこ情報、それ」
またそんな古い話をと苦笑するベルを見ながら、
「まぁ確かにかっこいいな、伯爵。俺も爵位を継ぐにあたり、この領地の事を考えていかないとな」
とルキは真面目な顔をしてお茶を一口飲んだ。
ぽつり、ぽつりと言葉を交わすうち、少しずつベルの口調が2人で話す時に近いものに変わる。
ルキはお茶一杯分時間が欲しいと言った。
面倒ならさっさと飲んで立ち去ってもこちらは文句が言えないのに、ベルは律儀にお茶をほとんど飲まず話を聞いてくれる。
そんなベルの優しさに甘えて時間をずるずる伸ばしている自分を自覚しながら、ルキはどう切り出そうと考え込む。
ついに話題が途切れたとき、
「ねぇ、ルキは本当は何の話がしたかったの?」
私そろそろ帰ろうかと思うんだけどとベルに言われてしまった。
じっーとアクアマリンの瞳がコチラを見つめる。
このままでいいの? と若干の呆れを滲ませながら。
ルキは今まで数え切れないほどの商談をまとめてきたし、プレゼンには自信があった。だけど、今日ほど緊張した事は初めてで鼓動が速くなるのを聞きながら、ゆっくり息を吐き出して、濃紺の瞳にベルを映した。
「ベル・ストラル伯爵令嬢。今日はあなたに商談を持ってきました」
お見合いの日のベルのプレゼンになぞらえてそう切り出したルキは、
「商品は私、ルキ・ブルーノ、23歳。契約期間無期限で、私と契約結婚しませんか?」
驚いた表情を浮かべるベルの前に作り込んだプレゼン資料を広げる。
それはストラル伯爵家、ブルーノ公爵家両家の領地で行う共同事業の提案だった。
女性をターゲットとした衣服や化粧品を中心に展開する事業内容で、出資金と権利は同等。ブルーノ公爵家はその広い知名度と他国との輸入で確保できる良質で安価な布や規格外の宝石になれなかった石といった特殊品の確保と提供を行い、ストラル伯爵家はそれらを加工する技術と販売を担うというものだった。
一度始まってしまえば、それは仕事をしているときのルキそのもので、よく通る声でルキが話す、両家のメリットデメリット、見込める収益など明快なプレゼンにベルはどんどん引き込まれていく。
ルキの話を聞き終わる頃にはベルのアクアマリンの瞳はキラキラ輝き、面白いとやってみたいでワクワクした表情を浮かべていた。
「と、いう企画なんだけど、俺は外交省で一番上まで行くつもりだし、伯爵はストラル社の運営と研究で忙しい。そんなわけでベル、独立して責任者としてガッツリ稼いでみてはどうだろうか?」
自分で稼ぎたいと言ったベルにとって自由度高くこの事業に取り組めるのはかなり魅力的な内容だ。
公爵家と共同ならかなり手広くできるだろうとベルは内容の重さと責任、だがそれ以上に挑戦したい気持ちで揺らぐ。
「両家の利権がかなり絡む上に、多くの人間を巻き込むので途中で頓挫しないために双方から担保が欲しい。だから」
担保、という言葉で現実に引き戻されたベルはまじまじとルキの方を見る。
先程まで澱みなく話していたルキがとても緊張した様子でじっとベルのアクアマリンの瞳を見返しながら、
「ベル、俺と契約結婚しませんか?」
ルキはそう締め括った。
きょとんとした顔で首を傾げるベルを見ながら、ルキはクスッと笑う。
「ベルの好みのタイプがストラル伯爵か弟のハルだと聞いてね。ハルの良さは分かっているが、ストラル伯爵はどうなのかなーって」
「……私の好みって……どこ情報、それ」
またそんな古い話をと苦笑するベルを見ながら、
「まぁ確かにかっこいいな、伯爵。俺も爵位を継ぐにあたり、この領地の事を考えていかないとな」
とルキは真面目な顔をしてお茶を一口飲んだ。
ぽつり、ぽつりと言葉を交わすうち、少しずつベルの口調が2人で話す時に近いものに変わる。
ルキはお茶一杯分時間が欲しいと言った。
面倒ならさっさと飲んで立ち去ってもこちらは文句が言えないのに、ベルは律儀にお茶をほとんど飲まず話を聞いてくれる。
そんなベルの優しさに甘えて時間をずるずる伸ばしている自分を自覚しながら、ルキはどう切り出そうと考え込む。
ついに話題が途切れたとき、
「ねぇ、ルキは本当は何の話がしたかったの?」
私そろそろ帰ろうかと思うんだけどとベルに言われてしまった。
じっーとアクアマリンの瞳がコチラを見つめる。
このままでいいの? と若干の呆れを滲ませながら。
ルキは今まで数え切れないほどの商談をまとめてきたし、プレゼンには自信があった。だけど、今日ほど緊張した事は初めてで鼓動が速くなるのを聞きながら、ゆっくり息を吐き出して、濃紺の瞳にベルを映した。
「ベル・ストラル伯爵令嬢。今日はあなたに商談を持ってきました」
お見合いの日のベルのプレゼンになぞらえてそう切り出したルキは、
「商品は私、ルキ・ブルーノ、23歳。契約期間無期限で、私と契約結婚しませんか?」
驚いた表情を浮かべるベルの前に作り込んだプレゼン資料を広げる。
それはストラル伯爵家、ブルーノ公爵家両家の領地で行う共同事業の提案だった。
女性をターゲットとした衣服や化粧品を中心に展開する事業内容で、出資金と権利は同等。ブルーノ公爵家はその広い知名度と他国との輸入で確保できる良質で安価な布や規格外の宝石になれなかった石といった特殊品の確保と提供を行い、ストラル伯爵家はそれらを加工する技術と販売を担うというものだった。
一度始まってしまえば、それは仕事をしているときのルキそのもので、よく通る声でルキが話す、両家のメリットデメリット、見込める収益など明快なプレゼンにベルはどんどん引き込まれていく。
ルキの話を聞き終わる頃にはベルのアクアマリンの瞳はキラキラ輝き、面白いとやってみたいでワクワクした表情を浮かべていた。
「と、いう企画なんだけど、俺は外交省で一番上まで行くつもりだし、伯爵はストラル社の運営と研究で忙しい。そんなわけでベル、独立して責任者としてガッツリ稼いでみてはどうだろうか?」
自分で稼ぎたいと言ったベルにとって自由度高くこの事業に取り組めるのはかなり魅力的な内容だ。
公爵家と共同ならかなり手広くできるだろうとベルは内容の重さと責任、だがそれ以上に挑戦したい気持ちで揺らぐ。
「両家の利権がかなり絡む上に、多くの人間を巻き込むので途中で頓挫しないために双方から担保が欲しい。だから」
担保、という言葉で現実に引き戻されたベルはまじまじとルキの方を見る。
先程まで澱みなく話していたルキがとても緊張した様子でじっとベルのアクアマリンの瞳を見返しながら、
「ベル、俺と契約結婚しませんか?」
ルキはそう締め括った。