結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「へぇ、ルキが同伴ありなんて珍しい」

 そう言えば婚約したんだっけ? とルキのパーティー出席の届けを受けて、ルキの同僚で友人でもある、レイン・モリンズが物珍しげにそう言った。

「夜会に連れて行くようになる前に慣れた方がいいかと思ってな」

 特に問題なければ、試用期間を終えて本契約になる。
 ルキとしては不本意ながら今のところ恋人ごっこ(契約婚約者)は続けるつもりなので、このパーティーを機にベルとの婚約が広く知られる事になるだろう。

「へぇ、これはパーティーが楽しみだな。ベル嬢ってどんな感じの子?」

「……見た目と中身のギャップがありすぎる。その上暴言が酷い」

 黙っていれば可愛い方だと思うのに、見た目とは裏腹に中身は肝が座り過ぎている。
 今までの人生で言われた事がない数々の暴言を思い出し、ルキはベルにやられっぱなしの戦況に悔しそうに拳を握る。
 だいたい、全人類バニー好きってなんだよとあれからまともにベルの顔が見られないルキは、ため息をつく。

「なぁ、変なこと聞いていいか? お前バニー好き?」

「嫌いな男いるのか?」

 即答で返ってきた返事にベルのドヤ顔が浮かんで、なんでほんとにこうなったとルキは頭を抱えて深いため息をついた。

「なんでそんな子と婚約したんだよ」

 そんな悲惨感漂うルキに一体何があったんだとレインは心配そうにそう言うが、

「のっぴきならない事情があって」

 詳細を語るのは流石に憚られたので、そう言ってお茶を濁した。

「まぁ、さすが変わり者と名高いストラル伯爵の妹だな。けど、才女だろ? 王立学園を特待生主席で卒業してるし」

 詳しく話してくれないルキに、レインは自分の知っているベルの情報を口にする。

「はっ?」

 特待生主席?
 初耳だと驚くルキは、

「ていうか、なんでレインがそんなことを知ってるんだよ」

 そもそもの疑問を口にする。

「むしろ、なんでルキが知らないんだよ」

 レインは婚約者に興味持てよと苦笑して、

「一昨年、大分話題になったじゃないか。外交省の採用試験、トップの成績で通過したにも関わらず、不合格。のち、やはり勿体ないって繰り上げ採用って形で内定出したのに、秒で蹴った変わり者。彼女がここに勤めてたら、去年の新人教育もっと楽だったんじゃないか?」

 覚えてないのかと尋ねた。

「……覚えてない」

「ルキは女が絡む揉め事、本当に嫌いだもんな」

 今までルキが散々な目に遭ってきたのを知っているレインは、無理もないかと肩を竦める。

「あーじゃコレは? お前が一昨年採用試験で出した問題」

 レインは紙の上にペンを走らせ"矛盾"と記載する。

『矛盾、と言う言葉ができた逸話がある。"あなたの矛であなたの盾を貫いたらどうなるか?" 問:あなたなら、この後どうするか?』

 これは、ルキが採用試験実施にあたり出した課題だ。
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