結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ていうか、ルキ本当に知らないんだな。まぁ、お前潔癖だもんな。興味ない、か」

 本当によくストラル伯爵令嬢と婚約したなとレインは不思議そうに口にする。
 
「不倫とか浮気とか愛憎劇とか生理的に受けつけないっていうか。そのドロドロの男女関係の果てに生まれた貴族の庶子なんて、視界にも入らないか」

 ストラル伯爵令嬢が私生児なのは有名だもんなとレインは肩を竦める。

「ベルは、そんな風に扱われていい子じゃない!!」

 私生児、という言葉が耳に入り、気づけばルキはそう叫んでいた。

「……なんでルキが怒るんだよ。お前、さっき散々文句言ってただろうが」

 困惑気味にレインはルキの方を見る。

『あなた、嫌いでしょ? 半分庶民の血の入っている貴族の庶子なんて』

 見合いの日にベルに言われた言葉を思い出し、ルキは額を押さえる。

「ははっ、全くだ。俺に腹を立てる権利なんて……」

 ああ、最低なのは俺の方だ。
 ベルの言葉を理解して、苦くて重いものでも飲まされたかのような気分になった。
 部屋に重い沈黙が流れたところで、

「休憩中に失礼いたします。ブルーノ秘書官にブルーノ公爵家からのお届け物をお預かりしたのでお持ちしました」

 と、受付の女性がやってきた。

「私にか? 一体誰から」

 受け取った封筒には『お兄様、ごめんなさい』と見慣れたシルヴィアの筆跡でメモが貼り付けてあった。

「……シル、また人の物にイタズラして。まぁ、確かにこれがないと困るが、わざわざ使用人に届けさせなくてもよかったのに」

 最近めっきり癇癪がなくなり、元の可愛い妹に戻ったシルヴィアとの関係が良好なのは、ベルのおかげだよなとルキの表情が緩む。
 そんなルキの顔に見惚れながら、受付嬢は、

「公爵家の使用人ってすごく所作がきれいなんですね。素敵なメイドさんで、思わず見惚れちゃいました」

 とブルーノ公爵家使用人を褒める。

「……所作のきれいなメイド? 君っ」

「は、はいっ///」

 ルキに詰め寄られ、受付嬢は顔を赤らめ返事をする。

「そのメイド、いつ届けにきた? で、どっちに行った」

「えっと、10分程前に、門に向かって歩いて行かれました」

「そうか。礼を言う」

「あ、あの! 秘書官、今度のパーティーのパートナーよければ///」

 何とかルキと関係を持ちたい受付嬢は、潤んだ瞳でルキに話かけるが、

「間に合っている」

 ルキはバッサリ断って、足早に執務室を後にした。

「はぁ、今日も取りつく島もないくらい、クールだわ。素敵」

 ルキの背中を見ながら受付嬢は熱い視線を送る。
 そんなやりとりを外野からみていたレインは、

「なんだ、完全に落ちてるじゃん」

 微笑ましそうに小さく笑った。
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