結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「行きましたね。あの手のタイプは一回ガツンとやっといた方がいいので、もう大丈夫かと」

 来るとしても今後は私の方に来ると思いますので、とルキを解放したベルは淡々とそう告げる。

「…………ベル、身体張りすぎだ」

 ルキは口を手で覆い視線を逸らしてそう言った。

「そんなファーストキス奪われた乙女のように恥じらわなくても。別に本当にしたわけでもないのに」

 ベルはチョコレートを包んでいた透明フィルムをペラペラと見せる。

「フィルムした上にちゃんと寸止めしたじゃないですかー。ほら言ったでしょ? ルキ様の貞操は私が守りますって」

「…………あーハイハイ。君は手慣れてるんだな」

 ぷいっと拗ねたようにそっぽを向いたルキに、

「失礼な。耳年増なだけですー」

 せっかく助けてあげたのに、何を怒っているんですかとベルは呆れた口調でため息をついた。

「は? 信じられるか。手慣れすぎた」

「別に信じる信じないはルキ様の勝手ですけど、単純に似た事例が身近にいるから見慣れているだけなんですけどね」

「?」

 ベルの言っていることが分からず、疑問符を浮かべたルキに、

「ふふ、うちのお義姉様、兄の事が好きすぎて。全方位あの手この手で近づいてくる女性を撃退するので。いやぁーもう、妹の私ですらたまに目のやり場に困りますねぇ」

 義姉の真似しただけですとベルは笑ってそう言った。

「私こう見えてもファーストキス未経験どころか男女交際の経験なしですよ。だから贈り物もらったのも、パーティーでエスコートされたのもこれが初めてですよ」

 信じる信じないはルキ様次第ですけどと苦笑したベルは、

「まぁ、私の経歴なんて、あなたには関係ない話ですね」

 そう付け足した。

「……関係あるだろ、仮にも婚約者なんだから」

 初めて、とベルが言ったことになんでこんなに嬉しくなるのかと自身の早くなった心音を聞きながら、機嫌が直っている自分にルキは驚く。

「さて、ストーカーの撃退もしましたし、会場にもどりましょうか、王子様?」

 そんなルキの心情なんて知りもしないベルは、そう言って会場入りした時のようにルキに手を伸ばした。
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