結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「だって、ルキは政略結婚嫌いだろ? ストラル伯爵家との縁談なんて、誰がどう見ても政略結婚じゃないか」
「成金貴族が公爵家との縁欲しさに金積んだって奴か?」
世間的にはストラル伯爵家とブルーノ公爵家の間に今まで繋がりなど一切なく、幾度となく婚約の話が立ち消えたルキがもうすぐ試用期間を終えて正式に婚約を結ぼうとしている。
社交界にもほぼ出た事のないベルとの突然の婚約は様々な憶測を呼んでいるということは、ルキの耳にもいくつも入ってきていた。
もちろん、ベルについての悪い話も。頼んでもいないのに、暇な人間たちがしたり顔でルキにベルについての根も歯もない噂や庶子であることについて囁いていくが、キリがない上にベル本人を見ているとどうでもいいと思える内容ばかりなので、最近のルキはその手の話を一切聞かない事にしていた。
「そっちじゃない方の噂」
レインは一応耳には入れとけよと忠告し、
「ストラル伯爵、また侯爵位への陞爵蹴ったらしいよ」
と小声で囁いた。
「はぁ? そんな噂どこで」
「これは確かな筋の情報。ちなみに蹴ったのコレで3回目。責任と税金が増えるだけの身分なんていらんとさ」
陞爵など普通なら名誉あることと貴族なら一もニもなく食いつく話だ。
だが、あの変わり者の伯爵は今の陛下に代替わりしてから国の要請も余程でなければ応じない。
「ストラル伯爵家は一度没落寸前まで行ってる。でも、没落しそうになっても誰もあの家に手を差し伸べなかった。ストラル伯爵が自力で復興させたんだよ。誰も関わってないせいでどうやったのか、詳しくは知らないけど」
多くの謎と憶測の飛び交うそれについて、ストラル伯爵は一切の沈黙を保っており、暴こうとしようものなら、何故か不可解な出来事に巻き込まれてしまうのだという。
「そんな一気に力を持った家、国に繋ぐ方法は爵位か婚姻だろ。反旗を翻されたら困るって思ってる人間は多いと思うよ。まぁ、あの伯爵は随分変わり者だし、そんな野心無さそうだけど」
取引先としてはむしろかなり優良企業とレインは頷く。
「なら、別にそんなに警戒しなくても」
「野心がないのと、できる、できないは別の話だろ」
「全然、結び付かないな」
ベルが語る兄の姿とレインの話すストラル伯爵の像が一致せず、ルキは首を傾げる。
そして、改めて思う。
「俺は、ベルの事全然知らないな」
彼女について知っている事なんて、出会ってからの3ヶ月分の情報しかなく、本当に何も知らないのだなと思う。
『だって、あなた私に興味ないでしょ?』
ベルはそう言って明確に線を引く。では興味を持ったなら知りたい、と思ってもいいのだろうか?
そんな事を考えていたルキに、
「あ、そうだ。俺、今日学園に次年度の採用試験の案内持って行くつもりだったんだけど。ルキに譲るわ」
とレインが名案を思いついたかのようにポンと仕事を投げてきた。
「はぁ? そういうのは人事の役目だろ? なんでお前が? でもって、なんでそんな面倒を俺に譲るんだ?」
意図が理解できず、訝しむルキに、
「いやぁーベル嬢が在校生相手に演説するって聞いたから。拝聴したいなって♪」
人事の女の子に人気のパティシエの菓子折り持って行ったら快く譲ってくれたよとポスターをヒラヒラさせる。
「でも、まぁルキが行かないならやっぱり俺午後から」
「俺、今日直帰にするから」
今日だったのか、とベルの話を思い出し、差し出された試験案内の封筒を受け取るとルキは足早に部屋から出ていく。
レインはそんなルキの背中をみながら、
「変わり身早っ。ハイハイ、仲良くね〜」
と微笑ましそうに見送った。
「成金貴族が公爵家との縁欲しさに金積んだって奴か?」
世間的にはストラル伯爵家とブルーノ公爵家の間に今まで繋がりなど一切なく、幾度となく婚約の話が立ち消えたルキがもうすぐ試用期間を終えて正式に婚約を結ぼうとしている。
社交界にもほぼ出た事のないベルとの突然の婚約は様々な憶測を呼んでいるということは、ルキの耳にもいくつも入ってきていた。
もちろん、ベルについての悪い話も。頼んでもいないのに、暇な人間たちがしたり顔でルキにベルについての根も歯もない噂や庶子であることについて囁いていくが、キリがない上にベル本人を見ているとどうでもいいと思える内容ばかりなので、最近のルキはその手の話を一切聞かない事にしていた。
「そっちじゃない方の噂」
レインは一応耳には入れとけよと忠告し、
「ストラル伯爵、また侯爵位への陞爵蹴ったらしいよ」
と小声で囁いた。
「はぁ? そんな噂どこで」
「これは確かな筋の情報。ちなみに蹴ったのコレで3回目。責任と税金が増えるだけの身分なんていらんとさ」
陞爵など普通なら名誉あることと貴族なら一もニもなく食いつく話だ。
だが、あの変わり者の伯爵は今の陛下に代替わりしてから国の要請も余程でなければ応じない。
「ストラル伯爵家は一度没落寸前まで行ってる。でも、没落しそうになっても誰もあの家に手を差し伸べなかった。ストラル伯爵が自力で復興させたんだよ。誰も関わってないせいでどうやったのか、詳しくは知らないけど」
多くの謎と憶測の飛び交うそれについて、ストラル伯爵は一切の沈黙を保っており、暴こうとしようものなら、何故か不可解な出来事に巻き込まれてしまうのだという。
「そんな一気に力を持った家、国に繋ぐ方法は爵位か婚姻だろ。反旗を翻されたら困るって思ってる人間は多いと思うよ。まぁ、あの伯爵は随分変わり者だし、そんな野心無さそうだけど」
取引先としてはむしろかなり優良企業とレインは頷く。
「なら、別にそんなに警戒しなくても」
「野心がないのと、できる、できないは別の話だろ」
「全然、結び付かないな」
ベルが語る兄の姿とレインの話すストラル伯爵の像が一致せず、ルキは首を傾げる。
そして、改めて思う。
「俺は、ベルの事全然知らないな」
彼女について知っている事なんて、出会ってからの3ヶ月分の情報しかなく、本当に何も知らないのだなと思う。
『だって、あなた私に興味ないでしょ?』
ベルはそう言って明確に線を引く。では興味を持ったなら知りたい、と思ってもいいのだろうか?
そんな事を考えていたルキに、
「あ、そうだ。俺、今日学園に次年度の採用試験の案内持って行くつもりだったんだけど。ルキに譲るわ」
とレインが名案を思いついたかのようにポンと仕事を投げてきた。
「はぁ? そういうのは人事の役目だろ? なんでお前が? でもって、なんでそんな面倒を俺に譲るんだ?」
意図が理解できず、訝しむルキに、
「いやぁーベル嬢が在校生相手に演説するって聞いたから。拝聴したいなって♪」
人事の女の子に人気のパティシエの菓子折り持って行ったら快く譲ってくれたよとポスターをヒラヒラさせる。
「でも、まぁルキが行かないならやっぱり俺午後から」
「俺、今日直帰にするから」
今日だったのか、とベルの話を思い出し、差し出された試験案内の封筒を受け取るとルキは足早に部屋から出ていく。
レインはそんなルキの背中をみながら、
「変わり身早っ。ハイハイ、仲良くね〜」
と微笑ましそうに見送った。