結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ベルは、このあとどうする気なんだ?」
「どうもしません。婚約破棄後はきっと、ルキ様にお目にかかる事は2度とないと思いますし」
そうキッパリ言い切るベルに驚いて、ルキは濃紺の瞳を大きくする。
婚約破棄するとは言えせっかく公爵家と縁ができたのだ。逞しいベルのことだから、夢を叶えるために今後も公爵家との繋がりを利用していくんだろうと勝手に思っていた。
「私はただの契約相手ですよ? それも素行のよろしくない」
そんなルキの様子を見て苦笑したベルは、あなたは私にとって、天の上の人なんですと静かに話す。
「あなたはいずれ公爵家を背負って立つ人間なのに、婚約破棄した相手と会うような事があったらいらない噂を立てられますよ?」
主に私が。
それじゃお互いのためにならないでしょ? と言ったベルは、婚約破棄後は2度とルキと会うつもりはないとはっきり告げた。
「ルキ様は私にまともな縁談がないかもなんて気にしてますけど、それ結局貴族間の話でしょ?」
あなたの尺度で測られても困りますと、ベルは淡々と言葉を紡ぎ出す。
「結婚には興味ないです。今の私の家族以外の誰かと一緒に生きていく事に、私は意味を見出せない」
それが今のベルの確かな気持ちだった。
「でも、もし私が誰かと一緒に居ることを選ぶ日が来たら、きっとそれは利権の絡まない相手です」
例えば、なんのしがらみもない一般庶民とかとベルはにこっと笑ってほら、なんの問題もないと言う。
「市井に降るつもり……なのか?」
ルキは信じられないものを見るかのように、アクアマリンの瞳をまじまじと覗き込んでそう尋ねる。
「私、その表現好きじゃないんですけど、降るも何も私は元々一般庶民ですよ。血の半分繋がった兄が異様なほどお人好しだったから、運良く貴族の末席に名前を連ねているだけの、ね」
元の生活に戻るだけですと、ベルはなんて事ないようにルキの質問を肯定する。
「まぁ、あとは兄のためも少しあるかな? 兄は世間であれこれ言われているような人じゃなくて、ただ人よりお人好しで、お義姉様のことが大好きで大切なだけなんです。だから、私の婚姻なんかで政治的なアレコレに巻き込ませたくない、っていうか」
巻き込まれたらその先で新たな事故が発生しそうですし、とおかしそうにベルは笑う。
実母がなくなり引き取られた先は、元の生活と同等かそれ以上に貧乏な伯爵家で、贅沢なんて全くできなかったけれど、慎ましくても楽しい日常だった。
借金がなくなって成金貴族と呼ばれるようになってからも、ストラル伯爵家は大きくは変わらない。
相変わらず使用人はおらず、各々好き勝手にやっているまるで貴族らしくない生活スタイル。
そしてそれが性に合ってあると思う自分には普通の貴族の妻なんて絶対にできないとベルは思う。
「まぁ、だから別にいいんです。貴族らしい生活なんて、私には合わないし」
根が貧乏性ですから、そう言って窓の外に干してある紅茶の出涸らしを指さす。こんな事をする貴族なんて、きっとそういないだろう。
「……ちなみに、契約の延長は?」
ベルの話を聞き終えてルキは静かに尋ねる。
「そこに記載してある通りです」
ベルはトンっと指でさす。
「9ヶ月後の末日を待って、契約は終了です。お互い、目的を達成していても、していなくても」
嘘の婚約者なんて、1年が限界ですよと苦笑したベルは、
「契約期間満了後は速やかに婚約破棄願います」
と更新も延長もしない事をはっきり告げた。
「……承知した」
ルキは少しだけ考えて、了承を告げると契約書と婚約申請書、婚約破棄申請書の記載項目を綺麗な字で埋めていった。
「どうもしません。婚約破棄後はきっと、ルキ様にお目にかかる事は2度とないと思いますし」
そうキッパリ言い切るベルに驚いて、ルキは濃紺の瞳を大きくする。
婚約破棄するとは言えせっかく公爵家と縁ができたのだ。逞しいベルのことだから、夢を叶えるために今後も公爵家との繋がりを利用していくんだろうと勝手に思っていた。
「私はただの契約相手ですよ? それも素行のよろしくない」
そんなルキの様子を見て苦笑したベルは、あなたは私にとって、天の上の人なんですと静かに話す。
「あなたはいずれ公爵家を背負って立つ人間なのに、婚約破棄した相手と会うような事があったらいらない噂を立てられますよ?」
主に私が。
それじゃお互いのためにならないでしょ? と言ったベルは、婚約破棄後は2度とルキと会うつもりはないとはっきり告げた。
「ルキ様は私にまともな縁談がないかもなんて気にしてますけど、それ結局貴族間の話でしょ?」
あなたの尺度で測られても困りますと、ベルは淡々と言葉を紡ぎ出す。
「結婚には興味ないです。今の私の家族以外の誰かと一緒に生きていく事に、私は意味を見出せない」
それが今のベルの確かな気持ちだった。
「でも、もし私が誰かと一緒に居ることを選ぶ日が来たら、きっとそれは利権の絡まない相手です」
例えば、なんのしがらみもない一般庶民とかとベルはにこっと笑ってほら、なんの問題もないと言う。
「市井に降るつもり……なのか?」
ルキは信じられないものを見るかのように、アクアマリンの瞳をまじまじと覗き込んでそう尋ねる。
「私、その表現好きじゃないんですけど、降るも何も私は元々一般庶民ですよ。血の半分繋がった兄が異様なほどお人好しだったから、運良く貴族の末席に名前を連ねているだけの、ね」
元の生活に戻るだけですと、ベルはなんて事ないようにルキの質問を肯定する。
「まぁ、あとは兄のためも少しあるかな? 兄は世間であれこれ言われているような人じゃなくて、ただ人よりお人好しで、お義姉様のことが大好きで大切なだけなんです。だから、私の婚姻なんかで政治的なアレコレに巻き込ませたくない、っていうか」
巻き込まれたらその先で新たな事故が発生しそうですし、とおかしそうにベルは笑う。
実母がなくなり引き取られた先は、元の生活と同等かそれ以上に貧乏な伯爵家で、贅沢なんて全くできなかったけれど、慎ましくても楽しい日常だった。
借金がなくなって成金貴族と呼ばれるようになってからも、ストラル伯爵家は大きくは変わらない。
相変わらず使用人はおらず、各々好き勝手にやっているまるで貴族らしくない生活スタイル。
そしてそれが性に合ってあると思う自分には普通の貴族の妻なんて絶対にできないとベルは思う。
「まぁ、だから別にいいんです。貴族らしい生活なんて、私には合わないし」
根が貧乏性ですから、そう言って窓の外に干してある紅茶の出涸らしを指さす。こんな事をする貴族なんて、きっとそういないだろう。
「……ちなみに、契約の延長は?」
ベルの話を聞き終えてルキは静かに尋ねる。
「そこに記載してある通りです」
ベルはトンっと指でさす。
「9ヶ月後の末日を待って、契約は終了です。お互い、目的を達成していても、していなくても」
嘘の婚約者なんて、1年が限界ですよと苦笑したベルは、
「契約期間満了後は速やかに婚約破棄願います」
と更新も延長もしない事をはっきり告げた。
「……承知した」
ルキは少しだけ考えて、了承を告げると契約書と婚約申請書、婚約破棄申請書の記載項目を綺麗な字で埋めていった。