結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「そういう問題じゃねぇよ」

 何話まとめてくれてんの? と伯爵はベロニカに待ったをかける。だが、ベロニカは全く動じない。

「まぁまぁ、伯爵。いいじゃないですか。ベルさんの夢のためなら、婚約破棄の1回や2回や3回や4回や5回くらい目を瞑ってあげても」

 大した事じゃないですってとチェーンソー片手にそう笑うが、

「多い、多い。つーか、回数の問題じゃないからな?」

 全力でツッコミつつ、使い物にならなくなるからあなたは刃物持つの禁止ですと嫁からチェーンソーを取り上げた。

「あのな、ベル。こーもう、ちょっとさぁ、マシな解決方法なかったのかよ」

「妹をお人好し巻き込み事故に放り込んだ張本人(お兄様)に言われたくないわ」

 お兄様の事故件数、本が一冊書けるレベルよ? と言われてしまえば伯爵は黙るしかない。確かに元を辿れば自分にも責任の一端がないとは言えない。
 そんな兄にベルはさらに畳み掛ける。

「私は、お金儲けがしたいんです! それも、自分の好きな衣服の分野でっ!!」

「いや、それは知ってるけどな。だからって動機が不純過ぎる。遊びじゃないんだ。相手にだって迷惑だろうが」

 頭痛くなってきたと額を押さえる伯爵に、

「失礼なっ! 私はいつだって真剣です。真剣に婚約して真剣に破棄する気満々よ」

 ベルは全力抗議の姿勢を崩さない。

「真剣のベクトルの向きが迷子だろうが」

 俺、妹の教育間違ったかなとなんでこうなった案件に悩ましい顔をする伯爵肩を叩いて、

「伯爵、だーいじょうぶですって。商魂の逞しさが伯爵と一緒です♪」

 ぐっと親指を立ててベロニカが満面の笑顔で言い切る。
 その金の眼はまるで猫のように丸くなっていて、手には『面白い方に1票』と書いた手製のフリップを持っている。

「……ベロニカ、全力でこの状況楽しんでるな」

 ベロニカが完全にベル側についたと悟り、伯爵は深い深いため息とともに妹の説得を諦めた。
< 6 / 195 >

この作品をシェア

pagetop