結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「本当は観劇のチケットとか社会人に相応しい時計とか贈ってあげたいんですけど、流石に学生だと手が出なくって」

 いい席のチケットは高いから2枚は買えないって一人で行かせるのも可哀想だし、時計は本人の趣味もあるだろうしと目を伏せたハルを見て、

「ベルは観劇好きなのか?」

 知らないベルの話にルキは興味を示す。

「劇自体というより、舞台衣装を纏った役者さん見るのが好きみたいですけど。ああ、でもジャンルは特に感動して泣ける系とかハッピーエンドものが好きです。娯楽本ならアクション系とか推理系が好きですけど」

「……そうか」

 一通り話を聞いたルキは、少し考えてからちょっと、出てくると部屋を後にした。

「ハル君すごいアシストしてるけど、君はベル嬢とルキをくっ付けたいの?」

 ハルと残された部屋で、2人のやり取りを見守っていたレインはクスクス笑ってそう尋ねる。
 積極的には介入しませんけどね、と言ったハルは、

「姉はしっかりしているせいかどうしようもなくダメ男に好かれる傾向があるんですよねぇ」

 そう言ってため息をつく。

「しかも本人かなり世話焼きなんで、うっかりどこぞのダメ男に絆されて愛人になったり借金背負わされたりしないか心配なんです。マジで」

 結婚願望ないだけに、余計心配と自由過ぎる姉の姿を思い浮かべる。

「その点、ルキ様は普通にいい人ですし。女性関係にトラウマ持ってるなら浮気の心配なさそうだし。公爵家だから借金の心配なさそうだし、仕事はできるのに適度にところどころ残念じゃないですか」

 いい感じにダメなところも含めて優良物件だなってとハルはルキを気に入ってますと推す。

「まぁ、そうなんだけど。何アルバイトは口実で、弟君はお姉さんの婚約者の品定めに来たの?」

「まぁ半分くらいは。姉は重度のブラコンですけど、僕も大概シスコンなんで」

 姉には適度なところで手を打って欲しいんで、としれっとそう言ったハルに、

「なるほど。まぁ、でもルキはどうみても、バレバレなくらいあからさまにベル嬢の事好きなのに無自覚だし、ベル嬢はルキに興味なさそうじゃない?」

 あと8ヶ月でなんとかなると思う? と面白そうに尋ねる。

「まぁ、そこはルキ様の頑張り次第じゃないですか。というわけで早く自覚して欲しい」

 結構頑固ですよね、面倒臭いと可愛げなくそう言ったハルは、

「僕かーなーり、今回頑張ったんで、進展しなかったら殴っていいですかね」

 とレインに尋ねる。
 
「そうだねぇ。俺もそろそろ惚気聞き飽きたし、殴りたい」

 苦笑したレインは2人で殴るかとハルに頷いて、

「ハル君、やっぱ来年うち受験しない? 君、人を見る目があるからうちで活躍できるよ」

 と誘う。

「考えときます。義兄(仮)と同じ職場とかエンドレスで姉の相談されそうでちょっとなぁーだし」

 遠くから見守る分にはいいけどずっと面倒なのは嫌と、ハルはキッパリそう言った。
< 60 / 195 >

この作品をシェア

pagetop