結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「そんなわけにはいかないですよ。プレゼントには観劇のチケットもらってるし」
「別に俺が払うんだから、気にする必要ないだろ」
ルキは男女が出かければ当然支払いは男が持つものだと思っていたし、今までの人生で連れ立った女性から懐事情を心配された事もない。
善意100%で好きなのどうぞというルキを見て、そりゃあまぁ、この人にとっては微々たる額でしょうけどとルキにこっそりため息をついたベルは、
「だ・か・ら! 人に奢ってもらったら素直に好きなもの頼めないでしょって言ってるの」
とそもそも生きている常識軸が違う相手に遠回しに言っても伝わらないと判断し、ストレートに物申した。
「…………? そういうもの、か?」
はっきりベルにそう言われ、彼女が本気で奢られる事を良しとしていない事を知る。
「そういうものです。なので、自分の分は自分で払います。会計は別で」
そう言ったベルはミルクティーを1杯頼んだだけだった。
「……じゃあ俺は俺で好きなもの頼むよ」
ああ、そうだったとルキは今更ながら自分の目の前に座るベル・ストラル伯爵令嬢についての考察が追いつく。
彼女は自分が大好きで尊敬しているというマダム・リリスのドレスでさえも理由がないと素直に受け取らない相手だ。
「そうしてください」
そっけなくそう言ったベルは、化粧直しに行ってきますと言い残し席を立った。
短時間しか中座していなかったはずなのに、ベルが戻って来た時にはすでにテーブルにオーダーしたものが並んでいた。
ベルはミルクティーしか頼んでいない。
だが、テーブルに置かれたそれはルキが1人で食べるには明らかに量が多い。
「……えーと、ルキ様は一体何を頼んだんでしょうか?」
「ブレンドコーヒーと季節のフルーツタルト、あとフォンダンショコラバニラアイスクリーム添え」
言われるまでもなくそれは見れば分かるのだが、両方ベルの好物だ。
「両方俺の分だよ。ベルの好物をベルに見せつけながら食べようと思って」
ベルが口を開く前にイタズラでもするかのように笑ってルキはそう宣言する。
「……どうぞ、ご自由に」
ベルはそう言って自分のミルクティーに口をつける。
それを見て自分のコーヒーに口をつけたルキは、
「けど、まぁ。困ったなぁ、実はこの後ディナーも予約してあって、2つも食べたら入らないかも」
とわざとらしくそう言った。
「はい? ディナーって、観劇見たらお屋敷に帰るんじゃ」
聞いてませんけど、と眉根を寄せて断ろうとするベルを遮って、
「そう、テーブルマナーの練習も兼ねてベルを連れて行こうと思って、予約したんだけど。ベルが行かないって言うならキャンセルだな。キャンセル料100%かかる上に、料理も無駄になっちゃうなぁー」
食べ物粗末にする人は嫌いだって言ってなかったっけ? とにこにこにこにこと笑顔を浮かべる。
ルキの笑顔に当てられた女の子達のざわめきを聞きながら、
「…………ふ、ははっ、ルキ様演技ダイコン過ぎる」
ベルはつられるように笑う。
ルキがベルが気にしなくていいようにと心配りをしてくれたのに、これ以上食い下がるのは野暮というものだろうとベルは置かれた取り皿を手に取る。
「ケーキ半分もらっていいですか? ディナーも行きます」
でも、少しくらいは払わせてと言ったベルに、
「実はもう支払い済みなんだ」
と濃紺の瞳が答えた。
「別に俺が払うんだから、気にする必要ないだろ」
ルキは男女が出かければ当然支払いは男が持つものだと思っていたし、今までの人生で連れ立った女性から懐事情を心配された事もない。
善意100%で好きなのどうぞというルキを見て、そりゃあまぁ、この人にとっては微々たる額でしょうけどとルキにこっそりため息をついたベルは、
「だ・か・ら! 人に奢ってもらったら素直に好きなもの頼めないでしょって言ってるの」
とそもそも生きている常識軸が違う相手に遠回しに言っても伝わらないと判断し、ストレートに物申した。
「…………? そういうもの、か?」
はっきりベルにそう言われ、彼女が本気で奢られる事を良しとしていない事を知る。
「そういうものです。なので、自分の分は自分で払います。会計は別で」
そう言ったベルはミルクティーを1杯頼んだだけだった。
「……じゃあ俺は俺で好きなもの頼むよ」
ああ、そうだったとルキは今更ながら自分の目の前に座るベル・ストラル伯爵令嬢についての考察が追いつく。
彼女は自分が大好きで尊敬しているというマダム・リリスのドレスでさえも理由がないと素直に受け取らない相手だ。
「そうしてください」
そっけなくそう言ったベルは、化粧直しに行ってきますと言い残し席を立った。
短時間しか中座していなかったはずなのに、ベルが戻って来た時にはすでにテーブルにオーダーしたものが並んでいた。
ベルはミルクティーしか頼んでいない。
だが、テーブルに置かれたそれはルキが1人で食べるには明らかに量が多い。
「……えーと、ルキ様は一体何を頼んだんでしょうか?」
「ブレンドコーヒーと季節のフルーツタルト、あとフォンダンショコラバニラアイスクリーム添え」
言われるまでもなくそれは見れば分かるのだが、両方ベルの好物だ。
「両方俺の分だよ。ベルの好物をベルに見せつけながら食べようと思って」
ベルが口を開く前にイタズラでもするかのように笑ってルキはそう宣言する。
「……どうぞ、ご自由に」
ベルはそう言って自分のミルクティーに口をつける。
それを見て自分のコーヒーに口をつけたルキは、
「けど、まぁ。困ったなぁ、実はこの後ディナーも予約してあって、2つも食べたら入らないかも」
とわざとらしくそう言った。
「はい? ディナーって、観劇見たらお屋敷に帰るんじゃ」
聞いてませんけど、と眉根を寄せて断ろうとするベルを遮って、
「そう、テーブルマナーの練習も兼ねてベルを連れて行こうと思って、予約したんだけど。ベルが行かないって言うならキャンセルだな。キャンセル料100%かかる上に、料理も無駄になっちゃうなぁー」
食べ物粗末にする人は嫌いだって言ってなかったっけ? とにこにこにこにこと笑顔を浮かべる。
ルキの笑顔に当てられた女の子達のざわめきを聞きながら、
「…………ふ、ははっ、ルキ様演技ダイコン過ぎる」
ベルはつられるように笑う。
ルキがベルが気にしなくていいようにと心配りをしてくれたのに、これ以上食い下がるのは野暮というものだろうとベルは置かれた取り皿を手に取る。
「ケーキ半分もらっていいですか? ディナーも行きます」
でも、少しくらいは払わせてと言ったベルに、
「実はもう支払い済みなんだ」
と濃紺の瞳が答えた。