結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ルキ様、まぁこんなところでどうされましたの?」
ふと、そんな声と共にルキの思考は現実に引き戻される。
自分に声をかけて来た名前も知らないその令嬢の目には媚びるような熱っぽさが灯っていて、ああ、また厄介なとルキは内心で毒付いた。
放って置いてくれればいいのに、と思うルキの心情などまるで考慮してくれない令嬢はペラペラと聞いていない話を語るが、ルキの耳は上手く音を拾わない。
「ふふ、お一人ですか? 実は私も……良ければ抜け出しません?」
許可した覚えもないのに勝手に擦り寄って来て、ルキの身体に触れる。近づいてきた彼女の纏う香水の匂いにルキは吐きそうになる。
ルキがそんな事を考えているなんて思いもしない令嬢は、冷たくあしらわれる事もないルキの態度に同意を得たとばかりにしだれかかってきた。
「ねぇ、ルキ様。私ずっと、あなたのことを」
令嬢が熱っぽくルキを見つめて口説こうとしたところで、
「お待たせいたしました、ルキ様」
とよく響く声でそう言ったベルの言葉にルキは顔を上げる。
その瞬間、心配そうなアクアマリンの瞳と視線が絡む。
コツコツコツコツとヒールの音を響かせながら近づいてきたベルは、
「行きましょうか、ルキ様」
令嬢を綺麗に無視してふわりと笑い、ルキに手を差し伸べた。
「ちょっと、貴女! 私は今ルキ様といい事をしている最中よ? わからなくって?」
「分かりませんね。それにこの人、私の婚約者なので。ああ、レディ。貴女のお連れ様らしき方がお探しでしたよ? 今戻れば言及しませんが、それ以上は不貞で訴えますよ?」
出るとこ出ます? とベルが微笑むと唇を震わせた令嬢はルキから離れて足早に去っていった。
「……ベル? なんで」
まだ劇の途中と言いかけたルキの言葉を遮って、ベルはハルにもらったブランケットを背中にかけてやりその背をさする。
「顔色が悪いです。吐きそうですか?」
とりあえずお水飲みます? と水の入った容器を差し出し、ゆっくりルキに飲ませる。
「馬車も手配しましたからもう少しで来ますよ」
「でも、この後は」
ディナーと言いかけたルキに、
「帰りましょう? おうちに」
お屋敷に電話して、全部キャンセルの連絡お願いしましたとベルは静かにそう告げて、馬車が来るまで大丈夫、大丈夫と小さな子どもをあやすようにルキの背中をさすり続けた。
「ごめんなさい、見る前に内容お伝えしておけばよかったですね」
馬車に乗って少し顔色が良くなったルキにベルはそう言って謝る。
女性関係トラウマだらけで、どこに地雷が埋まっているか不明なルキに、恋愛モノの話は向かないよなとベルは確認すれば良かったと後悔する。
「ベルが謝ることなんて何もないだろ。むしろごめん、誕生日台無しにして」
辛そうに口にするルキに、
「ふふ、そんな事ないですよ。素敵なカフェに連れて行ってくれたじゃないですか」
そう言ったベルは、もたれかかって良いですよと肩を貸す。
「ベルは、変な匂いしない」
素直にもたれかかったルキは、ベルの存在にほっとしたようにそうつぶやく。
「変なって……ああ、化粧とか香水の? さっきお嬢様に詰め寄られた時辛そうでしたもんね」
「……ん、色んな匂い混ざって、余計に酔いそうというか」
「あーまぁ、精神的にきてる時はキツイかもですね」
ゆっくり頷いて辛そうにしているルキを見たベルは、
「もし、ルキ様嫌でなかったら膝貸しましょうか?」
横になった方がもう少し楽かとと提案する。
「……ドレス皺になるよ」
さすがにそれは、と遠慮するルキに、
「ちゃんとケアするので大丈夫です。そんな事よりしんどそうなルキ様の方が心配です」
私の膝でよければどうぞとベルは優しく笑う。気恥ずかしさよりしんどさが勝ったルキは素直にベルに従う事にした。
「俺、本当カッコ悪いな」
ベルに膝枕をしてもらったルキはぼそっと自分でもなんでモテるか本当に分かんないんだけどとつぶやく。
「大丈夫です。ルキ様がカッコ悪いのは今更です」
そんなルキに苦笑してベルはさらさらと髪を撫でてそういった。
「……ベルひどい」
本当は今日まるで違う人みたいに見えたルキが、いつも通りのルキに戻って安心したなんて言えないなと内心でつぶやいたベルは事実なので、とクスッと笑った。
「少しおやすみください。屋敷に着いたら起こしますから」
ゆっくりルキの髪を撫でるベルはそっと笑いそう告げる。やっぱりベルだけは平気だなと思いながら目を閉じたルキはいつの間にかうとうとし、そのまま眠りに落ちた。
ふと、そんな声と共にルキの思考は現実に引き戻される。
自分に声をかけて来た名前も知らないその令嬢の目には媚びるような熱っぽさが灯っていて、ああ、また厄介なとルキは内心で毒付いた。
放って置いてくれればいいのに、と思うルキの心情などまるで考慮してくれない令嬢はペラペラと聞いていない話を語るが、ルキの耳は上手く音を拾わない。
「ふふ、お一人ですか? 実は私も……良ければ抜け出しません?」
許可した覚えもないのに勝手に擦り寄って来て、ルキの身体に触れる。近づいてきた彼女の纏う香水の匂いにルキは吐きそうになる。
ルキがそんな事を考えているなんて思いもしない令嬢は、冷たくあしらわれる事もないルキの態度に同意を得たとばかりにしだれかかってきた。
「ねぇ、ルキ様。私ずっと、あなたのことを」
令嬢が熱っぽくルキを見つめて口説こうとしたところで、
「お待たせいたしました、ルキ様」
とよく響く声でそう言ったベルの言葉にルキは顔を上げる。
その瞬間、心配そうなアクアマリンの瞳と視線が絡む。
コツコツコツコツとヒールの音を響かせながら近づいてきたベルは、
「行きましょうか、ルキ様」
令嬢を綺麗に無視してふわりと笑い、ルキに手を差し伸べた。
「ちょっと、貴女! 私は今ルキ様といい事をしている最中よ? わからなくって?」
「分かりませんね。それにこの人、私の婚約者なので。ああ、レディ。貴女のお連れ様らしき方がお探しでしたよ? 今戻れば言及しませんが、それ以上は不貞で訴えますよ?」
出るとこ出ます? とベルが微笑むと唇を震わせた令嬢はルキから離れて足早に去っていった。
「……ベル? なんで」
まだ劇の途中と言いかけたルキの言葉を遮って、ベルはハルにもらったブランケットを背中にかけてやりその背をさする。
「顔色が悪いです。吐きそうですか?」
とりあえずお水飲みます? と水の入った容器を差し出し、ゆっくりルキに飲ませる。
「馬車も手配しましたからもう少しで来ますよ」
「でも、この後は」
ディナーと言いかけたルキに、
「帰りましょう? おうちに」
お屋敷に電話して、全部キャンセルの連絡お願いしましたとベルは静かにそう告げて、馬車が来るまで大丈夫、大丈夫と小さな子どもをあやすようにルキの背中をさすり続けた。
「ごめんなさい、見る前に内容お伝えしておけばよかったですね」
馬車に乗って少し顔色が良くなったルキにベルはそう言って謝る。
女性関係トラウマだらけで、どこに地雷が埋まっているか不明なルキに、恋愛モノの話は向かないよなとベルは確認すれば良かったと後悔する。
「ベルが謝ることなんて何もないだろ。むしろごめん、誕生日台無しにして」
辛そうに口にするルキに、
「ふふ、そんな事ないですよ。素敵なカフェに連れて行ってくれたじゃないですか」
そう言ったベルは、もたれかかって良いですよと肩を貸す。
「ベルは、変な匂いしない」
素直にもたれかかったルキは、ベルの存在にほっとしたようにそうつぶやく。
「変なって……ああ、化粧とか香水の? さっきお嬢様に詰め寄られた時辛そうでしたもんね」
「……ん、色んな匂い混ざって、余計に酔いそうというか」
「あーまぁ、精神的にきてる時はキツイかもですね」
ゆっくり頷いて辛そうにしているルキを見たベルは、
「もし、ルキ様嫌でなかったら膝貸しましょうか?」
横になった方がもう少し楽かとと提案する。
「……ドレス皺になるよ」
さすがにそれは、と遠慮するルキに、
「ちゃんとケアするので大丈夫です。そんな事よりしんどそうなルキ様の方が心配です」
私の膝でよければどうぞとベルは優しく笑う。気恥ずかしさよりしんどさが勝ったルキは素直にベルに従う事にした。
「俺、本当カッコ悪いな」
ベルに膝枕をしてもらったルキはぼそっと自分でもなんでモテるか本当に分かんないんだけどとつぶやく。
「大丈夫です。ルキ様がカッコ悪いのは今更です」
そんなルキに苦笑してベルはさらさらと髪を撫でてそういった。
「……ベルひどい」
本当は今日まるで違う人みたいに見えたルキが、いつも通りのルキに戻って安心したなんて言えないなと内心でつぶやいたベルは事実なので、とクスッと笑った。
「少しおやすみください。屋敷に着いたら起こしますから」
ゆっくりルキの髪を撫でるベルはそっと笑いそう告げる。やっぱりベルだけは平気だなと思いながら目を閉じたルキはいつの間にかうとうとし、そのまま眠りに落ちた。