結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「そう言えば、ルキ様のご用事は何だったんですか?」
普段来ない厨房までわざわざ追いかけて来たのだ。何か用事があったのだろうとベルは尋ねる。
「ああ、これ渡そうと思って」
鯛茶漬けに夢中で忘れかけていた本題に、ルキは苦笑しながらベルにラッピングされた箱を差し出す。
「これは?」
「誕生日プレゼント。本当はディナーの時に渡そうと思ってたんだけど」
行けなかったから、と誕生日おめでとうと改めて言った。
「プレゼントはもう観劇のチケットいただきましたよ?」
「あれはまぁ日頃のお礼というか。本命はこっち」
しかも半分も観れなかったし、とすまなさそうにルキが言うので、ベルは一旦箱を受け取り、
「……開けてもいいですか?」
と許可を得て開封した。
「時計?」
それは一目で高価なものだと分かる機械仕掛けの腕時計だった。
「1個ぐらい、いいの持っていても良いんじゃないかと」
って、これもハルの助言だからなんの捻りもないんだけどとルキは苦笑しながら時計を見つめるベルに使ってと静かに言った。
「……いただけません。こんな、高価なもの」
「ベルはいつもそれを言うね」
用意した時、そう言われる予感はあった。それでもルキはベルに形に残るものが渡したかった。
「だって、私は契約婚約者ですよ? 度を超えてますよ」
「だから、だよ」
ルキはベルの手を取り細い手首に視線を落とす。
「偽物の婚約者だから、指輪はあげられないし」
そういったルキは遠慮するベルの腕に時計を静かにつける。
「きっと、婚約破棄したあとは少なからず好奇の目にさらされる。君が困ったとき、売れば多少なりと助けになるよ」
ベルにはこれが似合うと思ったんだとそこに収まった時計を見て、ルキは満足気に笑う。
「……でも」
「君は、本当に変な所で遠慮するね」
貰えるものは素直にもらっておけばいいのにと思う一方で、こういうベルだから渡したいと思うんだろうなとルキは思う。
「きっと、俺が君にしてあげられることはほとんどないから。慰謝料代わりに受け取って」
「ありがとう、ございます」
ね? と笑うルキが纏う雰囲気がいつもとは違いベルは躊躇いながら、礼を述べる。
「……その……今日は、お出かけできて、色んなお話できて……楽しかったです」
「はは、ありがとう。気を遣わなくても大丈夫だよ」
「気を遣ってるわけじゃ、なくて。本当に」
本当に楽しかったのだ。自分でも驚くほどに。
「あんな風に、女の子として扱ってもらったの初めてだったし。ほら、道を歩く時だって歩道側にしてくれたり、歩調を合わせてくれたりしてたでしょ?」
ごくごく当たり前にそうしてくれたルキに不覚にもときめきそうになっただなんて、絶対言ってあげないが。
「ルキ様の事、残念なイケメンって言ったの取り消しますね」
きっと、ルキが自分を必要としなくなる日は近いな、とベルはそう思った。
普段来ない厨房までわざわざ追いかけて来たのだ。何か用事があったのだろうとベルは尋ねる。
「ああ、これ渡そうと思って」
鯛茶漬けに夢中で忘れかけていた本題に、ルキは苦笑しながらベルにラッピングされた箱を差し出す。
「これは?」
「誕生日プレゼント。本当はディナーの時に渡そうと思ってたんだけど」
行けなかったから、と誕生日おめでとうと改めて言った。
「プレゼントはもう観劇のチケットいただきましたよ?」
「あれはまぁ日頃のお礼というか。本命はこっち」
しかも半分も観れなかったし、とすまなさそうにルキが言うので、ベルは一旦箱を受け取り、
「……開けてもいいですか?」
と許可を得て開封した。
「時計?」
それは一目で高価なものだと分かる機械仕掛けの腕時計だった。
「1個ぐらい、いいの持っていても良いんじゃないかと」
って、これもハルの助言だからなんの捻りもないんだけどとルキは苦笑しながら時計を見つめるベルに使ってと静かに言った。
「……いただけません。こんな、高価なもの」
「ベルはいつもそれを言うね」
用意した時、そう言われる予感はあった。それでもルキはベルに形に残るものが渡したかった。
「だって、私は契約婚約者ですよ? 度を超えてますよ」
「だから、だよ」
ルキはベルの手を取り細い手首に視線を落とす。
「偽物の婚約者だから、指輪はあげられないし」
そういったルキは遠慮するベルの腕に時計を静かにつける。
「きっと、婚約破棄したあとは少なからず好奇の目にさらされる。君が困ったとき、売れば多少なりと助けになるよ」
ベルにはこれが似合うと思ったんだとそこに収まった時計を見て、ルキは満足気に笑う。
「……でも」
「君は、本当に変な所で遠慮するね」
貰えるものは素直にもらっておけばいいのにと思う一方で、こういうベルだから渡したいと思うんだろうなとルキは思う。
「きっと、俺が君にしてあげられることはほとんどないから。慰謝料代わりに受け取って」
「ありがとう、ございます」
ね? と笑うルキが纏う雰囲気がいつもとは違いベルは躊躇いながら、礼を述べる。
「……その……今日は、お出かけできて、色んなお話できて……楽しかったです」
「はは、ありがとう。気を遣わなくても大丈夫だよ」
「気を遣ってるわけじゃ、なくて。本当に」
本当に楽しかったのだ。自分でも驚くほどに。
「あんな風に、女の子として扱ってもらったの初めてだったし。ほら、道を歩く時だって歩道側にしてくれたり、歩調を合わせてくれたりしてたでしょ?」
ごくごく当たり前にそうしてくれたルキに不覚にもときめきそうになっただなんて、絶対言ってあげないが。
「ルキ様の事、残念なイケメンって言ったの取り消しますね」
きっと、ルキが自分を必要としなくなる日は近いな、とベルはそう思った。