結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
軽いノックの後入室を求める声がし、ベルはいつも通りどうぞ〜と声をかける。
「ベル、入るよ……で、ベルは今度は何してるの?」
顔を覗かせたルキは部屋で真剣な顔をして何かを作成中のベルを見て話しかけた。
ベルが奇妙な事をやらかすのはいつもの事なので、ルキはもはや驚く事もなく、ベルに尋ねる声はとても楽しげだ。
「見て分かりません!? 応援グッズ作ってます」
キリッとそう言ったベルはお手製のうちわをルキに見せる。
ベルの作成した両面うちわには『可愛いは正義!!』『スマイルください』『ここで決めポーズ』『ユランのドレスは世界一♡』といったメッセージと共に目立つよう派手なデコレーションが施されていた。
他にもテーブルにはペンライトや造花で作った花束が広げられており、
「久々に頑張りました!」
とドヤ顔でベルはうちわを振った。
「へーすごいね。初めて見た」
これを持って応援するの? と興味深そうにうちわを手にクルクルするルキとうちわがミスマッチ過ぎてベルはおかしそうに笑う。
「ええ、ちょっと営業かけがてら学祭に乗り込もうと思いまして。目立つでしょ」
ペンライトをクルクル振り回して笑うベルを見ながらルキはふわっと柔らかく表情を緩める。
「いいなぁ、楽しそう。俺も作ってみていい?」
そんなルキの顔を見て、ベルはアクアマリン色の目を見開く。
「……いい、ですけど」
自分の分はもう作ってしまったし、ルキが新たに作ったところで使うシーンなくない? とベルは思ったのだが、コレはまず何から取り掛かればと予備のうちわと残りの材料を手に真剣に悩むルキを見て、ベルは言葉を飲み込んだ。
契約婚約を結んで半年が経過した。
ルキと初めて出会った頃はまだ桜が咲くより前の寒い時期で、契約してから2つ目の季節が終わろうとしている今、ベルはルキの変化に戸惑いを隠せずにいる。
「……何? どうしたの、ベル。俺、どこか間違えてる?」
ベルに指示されながら真剣に作業をしていたルキは、ベルの視線に気づき手を止める。
「……いえ、応援うちわに間違いとかはないので。器用に作るなぁって、思って」
お上手ですよとベルに言われ、ルキは嬉しそうに作業を再開する。
そんなルキを見ながらベルは思う。ルキはこんな事をするタイプではなかったはずだ、と。
好奇心旺盛でなんでも積極的にやりたがるシルヴィアならわかるのだ。対してルキは興味のない分野や自身にとって無益な事に関して、時間を割く事を良しとしないタイプだ。時間が有限である事を十分理解している彼は、空いた時間があれば仕事に回す、そんな人であったはずなのに。
(距離の取り方を見誤らないようにしないと)
契約婚約者を続けるためには、ルキにとって心地よく程良い距離で利用価値がある存在でなくては、と自身の立ち位置を再確認しベルは改めて自分を戒めた。
「ベル、入るよ……で、ベルは今度は何してるの?」
顔を覗かせたルキは部屋で真剣な顔をして何かを作成中のベルを見て話しかけた。
ベルが奇妙な事をやらかすのはいつもの事なので、ルキはもはや驚く事もなく、ベルに尋ねる声はとても楽しげだ。
「見て分かりません!? 応援グッズ作ってます」
キリッとそう言ったベルはお手製のうちわをルキに見せる。
ベルの作成した両面うちわには『可愛いは正義!!』『スマイルください』『ここで決めポーズ』『ユランのドレスは世界一♡』といったメッセージと共に目立つよう派手なデコレーションが施されていた。
他にもテーブルにはペンライトや造花で作った花束が広げられており、
「久々に頑張りました!」
とドヤ顔でベルはうちわを振った。
「へーすごいね。初めて見た」
これを持って応援するの? と興味深そうにうちわを手にクルクルするルキとうちわがミスマッチ過ぎてベルはおかしそうに笑う。
「ええ、ちょっと営業かけがてら学祭に乗り込もうと思いまして。目立つでしょ」
ペンライトをクルクル振り回して笑うベルを見ながらルキはふわっと柔らかく表情を緩める。
「いいなぁ、楽しそう。俺も作ってみていい?」
そんなルキの顔を見て、ベルはアクアマリン色の目を見開く。
「……いい、ですけど」
自分の分はもう作ってしまったし、ルキが新たに作ったところで使うシーンなくない? とベルは思ったのだが、コレはまず何から取り掛かればと予備のうちわと残りの材料を手に真剣に悩むルキを見て、ベルは言葉を飲み込んだ。
契約婚約を結んで半年が経過した。
ルキと初めて出会った頃はまだ桜が咲くより前の寒い時期で、契約してから2つ目の季節が終わろうとしている今、ベルはルキの変化に戸惑いを隠せずにいる。
「……何? どうしたの、ベル。俺、どこか間違えてる?」
ベルに指示されながら真剣に作業をしていたルキは、ベルの視線に気づき手を止める。
「……いえ、応援うちわに間違いとかはないので。器用に作るなぁって、思って」
お上手ですよとベルに言われ、ルキは嬉しそうに作業を再開する。
そんなルキを見ながらベルは思う。ルキはこんな事をするタイプではなかったはずだ、と。
好奇心旺盛でなんでも積極的にやりたがるシルヴィアならわかるのだ。対してルキは興味のない分野や自身にとって無益な事に関して、時間を割く事を良しとしないタイプだ。時間が有限である事を十分理解している彼は、空いた時間があれば仕事に回す、そんな人であったはずなのに。
(距離の取り方を見誤らないようにしないと)
契約婚約者を続けるためには、ルキにとって心地よく程良い距離で利用価値がある存在でなくては、と自身の立ち位置を再確認しベルは改めて自分を戒めた。