結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ところで、このユランって誰?」

 ベル作成のうちわを指さしてルキは尋ねる。
 話題が壁ドンからそれた事にほっとしたベルは嬉々としてじゃんっと効果音付きで学祭のチラシを見せる。
 そこは一般市民向けに数年前建てられた手に職をつけることを目的として作られた学校で、特に商家の子が通っていると聞く。

「ここの服飾科の3年なんですけど、服飾関係で活動する気はないらしくて、卒業後は一般職として商業ギルドに入る予定らしいんですよね」

 ベルはルキにドレスや小物の写った画像を見せる。
 それは非常に綺麗で繊細な作りをしていて、作り手のこだわりを感じる作品だった。

「いい腕してると思いません? ぜひともビジネスパートナーとして引き入れたい……って、いっても直ぐに私が雇うのは無理なんでうちの商会に入ってくれないかなーって」
 
 デザイン部門に空き枠出たのでスカウトしに行くのだとベルはウキウキしながらそう語る。

「実は何度かお話ししに行ってるんですけど、頑なに断られてるんですよねぇ。今度の学祭でのドレスの発表を最後にこの道は諦めるって」

 ベルは写真に視線を落とし、そっと撫でる。

「成功する保証なんてないし、狭き道だって事は分かってるんです。無責任にヒトの進路は決められない。でも、勿体無いなって」

 自分の手がけるドレスについて嬉々と語っていたユランを思い出し、ベルはせっかくの才能を活かさないなんて勿体無いと改めて思う。

「声かけられるの、コレが最後のチャンスなんでダメ元で行ってきます」

 それに、ダメでもファッションショー見るの好きなんでとベルはうちわを振る。

「……本当にやりたい奴はヒトから言われるまでもなく堂々と突き進むと思うけど?」

 そんなベルを見ながら、時間の無駄じゃない? とルキは肩をすくめる。

「まぁ、そーですけど。踏み切れない子もいるんですよ。でも性別ごときで諦めちゃうなんてもったいなくないです?」

「性別?」

「ドレスデザイナーもお針子も女の子が多いでしょ? ユラン君は自分が男の子なの気にしてて」

 おそらく服飾科入学前にも色々言われたのだろう。それでも彼は折れずに卒業まで来たのだ。このまま終わらせるにはやはり勿体無いとベルは思う。

「……ベルがスカウトしたいのって、男の子なんだ」

 ユランなんて名前や服飾のドレスデザイナーなんててっきり女の子の話だと思っていたルキは驚いたように目を見開いて固まる。

「そうですよ。"好き"や"やりたい"に性別なんて関係ないのに……って、言っても決めるのはユラン君なんですけど」

 すっごく可愛い男の子なんですよとベルは嬉しそうにユランについて話す。
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