結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「……本当について来るとは思いませんでした」
超目立つんだけど、とそこにいるだけで注目が集まるルキと様々な視線に晒されながらベルはため息をつく。
「うわぁーみんな若いね……あ、でも俺より年上っぽい人もいる。屋台ちっさい。おおーこれ全部手作りなんだ、すごいねぇ。あ、ねえ、ベル! コレ何? 食べ物? こんな安く売って原価率どうなってるの?」
そんなベルの心中を無視してルキは興味津々に辺りを見回す。
はしゃぎ方がシルヴィアそっくりで、ああやっぱり兄妹だなとベルは苦笑する。
「ルキ様、庶民の学祭初めてで物珍しいのは分かります。ですが、注意事項を述べさせて頂いてもいいですか?」
私コレを1日連れて歩くのか、と初手から椅子ドンに動揺して断れなかった自分を悔やみつつ腹を括ったベルはルキに物申す。
「走らない、騒がない、知らない人について行かない。とりあえずくれぐれも、くれぐれも私から離れないでください」
学祭ぶち壊しになったら困るので、とベルに言われ、ルキは不満気に失礼なと眉を寄せる。
「一応言っておきますが、屋台の品は小切手使えませんからね! あと、公爵家への請求もダメです」
極力小銭で支払うのがマナーですと言われ、ルキは素直に驚く。
「気になるモノがあれば買ってあげますから、今日は財布出しちゃダメですよ。ルキ様、いいカモにされそう」
ないとは思いたいが、スリに合わないようにとベルは子どもに言い聞かせるように注意してから歩き出す。
「……ベルは俺のことなんだと思ってるの?」
「手のかかる金持ちの坊ちゃん」
キッパリそう言い切ったベルにまぁ確かにと苦笑したルキは、
「なのに、連れて来てくれたんだ」
ベルにありがとうとお礼を述べる。
驚いたように目を丸くしたベルは、少しバツが悪そうな顔をして、
「……いい、機会かなとは思ったんです。天上人が、気まぐれでも庶民の暮らしに目を向ける、なんてそうないでしょ?」
と小さな声でそう話す。
「あなたはいずれ公爵領を治めるようになるでしょ? うちみたいに小さな領地じゃないし、住んでる領民の実態を把握する手段なんてほとんどは紙の上で見る暮らしに関するデータなんだろうけど。数字だけじゃなくて、できたらその向こうには色んな事を考えてそれぞれ事情を抱えながら生きている人間がいるんだって知っていて欲しくて」
ベルはここではない遠くを見つめて、
「……飢えるのと凍えるのは本当に辛いから」
と真顔で静かにつぶやいた。
「えっ?」
喧騒の中でベルの言葉を拾ったルキは、今まで見た事のない冷たい表情をしていたベルに驚く。
「ま、ここにいるのは学校に通える余裕のある人達で、公爵領の人間じゃないですけどね。でも、たまには庶民的な体験も悪くないでしょ」
が、次の瞬間にはいつも通り笑うルキがよく知るベルに戻っていて、さっきのは見間違いだろうかと思うほどだった。
「……ベル、はぐれそうだから手を繋ごう」
ルキはベルにそう言って手を差し出す。
「はぁ? 何言ってるんですか、はぐれたら迷子センターにアナウンス頼みますよ」
眉根を寄せてそう言ったベルに、
「でも、周りの男女みんな手を繋ぐか腕組んでるんだけど、それがここでのスタンダードなんじゃ」
とルキに言われベルは周りを見渡す。
「いや、カップルはそうでしょうけど……」
自分達に必要か? と首を傾げたところでルキ目当ての女の子達のギラついた視線を感じ取る。貴族だろうが庶民だろうがルキの女の子ホイホイは変わらないらしい。
目立って面倒なパターンとはぐれて面倒なパターンをシュミレーションし、はぐれたルキのお守りでユランに営業をかけ損ねてはたまらないと答えを弾き出したベルは、
「……お手をどうぞ、王子様」
ため息まじりにルキの引率を行うことにした。
超目立つんだけど、とそこにいるだけで注目が集まるルキと様々な視線に晒されながらベルはため息をつく。
「うわぁーみんな若いね……あ、でも俺より年上っぽい人もいる。屋台ちっさい。おおーこれ全部手作りなんだ、すごいねぇ。あ、ねえ、ベル! コレ何? 食べ物? こんな安く売って原価率どうなってるの?」
そんなベルの心中を無視してルキは興味津々に辺りを見回す。
はしゃぎ方がシルヴィアそっくりで、ああやっぱり兄妹だなとベルは苦笑する。
「ルキ様、庶民の学祭初めてで物珍しいのは分かります。ですが、注意事項を述べさせて頂いてもいいですか?」
私コレを1日連れて歩くのか、と初手から椅子ドンに動揺して断れなかった自分を悔やみつつ腹を括ったベルはルキに物申す。
「走らない、騒がない、知らない人について行かない。とりあえずくれぐれも、くれぐれも私から離れないでください」
学祭ぶち壊しになったら困るので、とベルに言われ、ルキは不満気に失礼なと眉を寄せる。
「一応言っておきますが、屋台の品は小切手使えませんからね! あと、公爵家への請求もダメです」
極力小銭で支払うのがマナーですと言われ、ルキは素直に驚く。
「気になるモノがあれば買ってあげますから、今日は財布出しちゃダメですよ。ルキ様、いいカモにされそう」
ないとは思いたいが、スリに合わないようにとベルは子どもに言い聞かせるように注意してから歩き出す。
「……ベルは俺のことなんだと思ってるの?」
「手のかかる金持ちの坊ちゃん」
キッパリそう言い切ったベルにまぁ確かにと苦笑したルキは、
「なのに、連れて来てくれたんだ」
ベルにありがとうとお礼を述べる。
驚いたように目を丸くしたベルは、少しバツが悪そうな顔をして、
「……いい、機会かなとは思ったんです。天上人が、気まぐれでも庶民の暮らしに目を向ける、なんてそうないでしょ?」
と小さな声でそう話す。
「あなたはいずれ公爵領を治めるようになるでしょ? うちみたいに小さな領地じゃないし、住んでる領民の実態を把握する手段なんてほとんどは紙の上で見る暮らしに関するデータなんだろうけど。数字だけじゃなくて、できたらその向こうには色んな事を考えてそれぞれ事情を抱えながら生きている人間がいるんだって知っていて欲しくて」
ベルはここではない遠くを見つめて、
「……飢えるのと凍えるのは本当に辛いから」
と真顔で静かにつぶやいた。
「えっ?」
喧騒の中でベルの言葉を拾ったルキは、今まで見た事のない冷たい表情をしていたベルに驚く。
「ま、ここにいるのは学校に通える余裕のある人達で、公爵領の人間じゃないですけどね。でも、たまには庶民的な体験も悪くないでしょ」
が、次の瞬間にはいつも通り笑うルキがよく知るベルに戻っていて、さっきのは見間違いだろうかと思うほどだった。
「……ベル、はぐれそうだから手を繋ごう」
ルキはベルにそう言って手を差し出す。
「はぁ? 何言ってるんですか、はぐれたら迷子センターにアナウンス頼みますよ」
眉根を寄せてそう言ったベルに、
「でも、周りの男女みんな手を繋ぐか腕組んでるんだけど、それがここでのスタンダードなんじゃ」
とルキに言われベルは周りを見渡す。
「いや、カップルはそうでしょうけど……」
自分達に必要か? と首を傾げたところでルキ目当ての女の子達のギラついた視線を感じ取る。貴族だろうが庶民だろうがルキの女の子ホイホイは変わらないらしい。
目立って面倒なパターンとはぐれて面倒なパターンをシュミレーションし、はぐれたルキのお守りでユランに営業をかけ損ねてはたまらないと答えを弾き出したベルは、
「……お手をどうぞ、王子様」
ため息まじりにルキの引率を行うことにした。