結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 控え室にスポンサー特権で入り込んだベルはお目当ての人物を見つけると、

「ユラン君みーっけ!!」

 元気よく駆け寄ってその学生に話しかける。

「うわぁ、ベルっちホントにアタシのドレス見に来たのー?」

 そう言って感嘆の声を上げた相手をルキはまじまじと見る。
 ベルと背丈が変わらない華奢で中性的な顔立ちのその人は、茶髪で長めの髪をピンで留め、男子学生の制服のズボンの上に大きめのサイズのセーターをダボっとゆるく着こなし、年上の貴族令嬢であるはずのベルに対して親しげにタメ口で話す。
 話す声も割と高めで、性別を事前に聞いていなければ男女どっちか判断がつかなかったかもしれないとルキは思う。
  
「勿論よー! ついでにユラン君スカウトするよー」

 ルキに構うことなく嬉しそうにユランに笑いかけたベルはじゃんっと自作の応援うちわをユランに見せる。

「わぁ、めっちゃデコってる。可愛い!」

「でしょう! ひっさしぶりに頑張ったわ」

「ところでぇ、ベルっち。ベルっちの後ろで固まってる超絶美形のイケメンって、ベルっちの彼ぴっぴ?」

 と指をさされたルキを見てベルは苦笑する。おそらくユランはルキの人生上会ったことのない人種なのだろう。
 どう反応すれば良いのかわからず固まっていた。

「ふふ、彼氏じゃないわ。社会科見学で連れて来たお世話になってる貴族令息」

 そう言ってルキを紹介する。

「取引先のヒトなのかしらん? あーなる! 納得。確かに彼氏っぽくない。ベルっちのタイプじゃなさそーだし」

 じっとルキに品定めするかのような視線を送ったあと、ユランはにこっと笑ってそう言った。
 その視線にルキが苛立ったように口を開きかけたところでベルがルキの前に立ち、

「そうねぇ、この方は天の上の方だから私じゃ釣り合わないわ」

 だからあんまり失礼な口きかないように、とベルはユランを嗜めてルキに謝る。
 ベルの行動を余計な事を言うな、と解釈したルキは無理矢理ついてきたのは自分だしと仕方なく言葉をつぐんだ。

「そんな事より、ウチへの就職考え直してくれた?」

 一緒に楽しい事をしようと手を出すベルに、

「何度も声をかけてくれてありがとだけど、もう決めた事だから」

 顔を曇らせたユランは首を横に振ると、

「最高の出来だから、アタシの最後のドレス見て行ってね!」

 超頑張ったのよぉーと笑う。

「モデルの子も綺麗に見せるためにウォーキングとかちょー頑張ってくれて」

 とユランが説明したところで、

「ユラン! 大変っ!! ユランのウェディングドレスがっ」

 と学生服を着た女の子が控え室に駆け込んで来た。
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