結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
ごめんなさいと何度も嗚咽を漏らしながら謝る女の子を前にユランは声をかけられずに立ち尽くす。
履き慣れない高いヒールを履いた学生同士のじゃれ合いの末、ドレスを巻き込んでの転倒。ユランの作品であるウェディングドレスはお披露目前に無惨に破けてしまっていた。
本来着る予定だった女の子も転倒した際に派手に捻挫し、とてもドレスを着こなせそうにない。
ウェディングドレスは特に長いトレーンの透け感にこだわり、会場に引かれた赤い絨毯を歩く時や後ろから見た時に映えるように計算して作っているようだった。自分と同じくマダム・リリスのドレスが好きだと熱弁していたユランらしい作品。
なんとかしてあげたいと思うも幕が上がるまであと30分。正直厳しいなとベルは状況を把握し言葉を失くす。
「仕方ないワ。今回はもう」
諦めるとユランが言いかけたところで、
「で、どれくらい時間があれば君達はコレを直せるの?」
と静観していたルキが口を開いた。
「正直、泣いている時間が勿体無い。社会に出たら仕事を放棄して"諦める"なんて甘えは許されないよ」
「……ルキ様」
そんな言い方しなくてもと言いかけたベルに、
「ベル、君は今日休日返上でコレをわざわざ見に来たんだろ。大人として正しく助言をしてあげるべきじゃないのか?」
ルキの淡々とした物言いにベルは背筋が伸びる。
しんと静まりかえった部屋にルキのよく通る声が響く。
「状況は正しく把握し、整理したのか? 事態を好転させるには何が足りない? 足らないものは、何で補える? これだけ頭があるなら全員で考えろ」
この人だけが、この状況で諦めていない。ベルはルキのことをじっと見る。
あらゆる"最悪"を想定し、刻々と変わる状況にも対応し、クライアントを必ず満足させる。だから彼は外交省でエースの座に君臨できるのだ。
「自分が"必要なパーツ"を持っていなくても、他の人やその後ろに縁ある人間は持っている可能性が高い。成功させたいなら、ヒトとの繋がりを上手く使え。例えばここにいる伯爵令嬢、とかね」
いきなりそう言われ、注目の集まったベルは疑問符を掲げる。
そんなベルを見ながらクスっと笑ったルキは、
「ベルは有能だ。15センチのヒールくらい余裕で履いてドレスを着こなし、誰よりも綺麗に自分を魅せて他の令嬢の戦意を喪失させて婚約者を守ってるんだぞ」
夜会で負けなしとそんなことを自慢げに語る。
「ちょ、ルキ様!? だいぶ語弊が有りますけど!!」
「ベルっち……本当に貴族令嬢だったの?」
「え!? そこ? そこ疑われてたの!?」
「まぁ、確かにベルは貴族令嬢っぽくないけどねー」
全力でユランに同意したルキは、
「ちなみに、コチラの伯爵令嬢の婚約者は"金払いのいい残念なイケメン"らしいから、お金で解決できることは大抵解決してくれると思うよ、多分」
と他人事のように自分のことを紹介する。
「ルキ様、何気に根に持ってますね。後半取り消したじゃないですか!」
もう! と抗議の声を上げたベルに、
「ベルっちの婚約者?」
マジで!? と衝撃を受けたような顔をしたユランに、
「婚約者、です」
あと半年だけだけどと言葉にせずに付け足したベルは、
「ねぇ、ユラン君。あとどれくらい時間があればいい? 協力させて」
と真面目な顔をして申し出た。
履き慣れない高いヒールを履いた学生同士のじゃれ合いの末、ドレスを巻き込んでの転倒。ユランの作品であるウェディングドレスはお披露目前に無惨に破けてしまっていた。
本来着る予定だった女の子も転倒した際に派手に捻挫し、とてもドレスを着こなせそうにない。
ウェディングドレスは特に長いトレーンの透け感にこだわり、会場に引かれた赤い絨毯を歩く時や後ろから見た時に映えるように計算して作っているようだった。自分と同じくマダム・リリスのドレスが好きだと熱弁していたユランらしい作品。
なんとかしてあげたいと思うも幕が上がるまであと30分。正直厳しいなとベルは状況を把握し言葉を失くす。
「仕方ないワ。今回はもう」
諦めるとユランが言いかけたところで、
「で、どれくらい時間があれば君達はコレを直せるの?」
と静観していたルキが口を開いた。
「正直、泣いている時間が勿体無い。社会に出たら仕事を放棄して"諦める"なんて甘えは許されないよ」
「……ルキ様」
そんな言い方しなくてもと言いかけたベルに、
「ベル、君は今日休日返上でコレをわざわざ見に来たんだろ。大人として正しく助言をしてあげるべきじゃないのか?」
ルキの淡々とした物言いにベルは背筋が伸びる。
しんと静まりかえった部屋にルキのよく通る声が響く。
「状況は正しく把握し、整理したのか? 事態を好転させるには何が足りない? 足らないものは、何で補える? これだけ頭があるなら全員で考えろ」
この人だけが、この状況で諦めていない。ベルはルキのことをじっと見る。
あらゆる"最悪"を想定し、刻々と変わる状況にも対応し、クライアントを必ず満足させる。だから彼は外交省でエースの座に君臨できるのだ。
「自分が"必要なパーツ"を持っていなくても、他の人やその後ろに縁ある人間は持っている可能性が高い。成功させたいなら、ヒトとの繋がりを上手く使え。例えばここにいる伯爵令嬢、とかね」
いきなりそう言われ、注目の集まったベルは疑問符を掲げる。
そんなベルを見ながらクスっと笑ったルキは、
「ベルは有能だ。15センチのヒールくらい余裕で履いてドレスを着こなし、誰よりも綺麗に自分を魅せて他の令嬢の戦意を喪失させて婚約者を守ってるんだぞ」
夜会で負けなしとそんなことを自慢げに語る。
「ちょ、ルキ様!? だいぶ語弊が有りますけど!!」
「ベルっち……本当に貴族令嬢だったの?」
「え!? そこ? そこ疑われてたの!?」
「まぁ、確かにベルは貴族令嬢っぽくないけどねー」
全力でユランに同意したルキは、
「ちなみに、コチラの伯爵令嬢の婚約者は"金払いのいい残念なイケメン"らしいから、お金で解決できることは大抵解決してくれると思うよ、多分」
と他人事のように自分のことを紹介する。
「ルキ様、何気に根に持ってますね。後半取り消したじゃないですか!」
もう! と抗議の声を上げたベルに、
「ベルっちの婚約者?」
マジで!? と衝撃を受けたような顔をしたユランに、
「婚約者、です」
あと半年だけだけどと言葉にせずに付け足したベルは、
「ねぇ、ユラン君。あとどれくらい時間があればいい? 協力させて」
と真面目な顔をして申し出た。