結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ん?」

「いや、だから。どうしたら"愛してる"なんて分かるんでしょうね。方程式があるわけでもなければ、可視化できるものでもないし。数値化された明確な判断基準ってないじゃないですか」

 心拍数毎分何回以上で恋です、なんて恋愛小説にも書いてないですねとベルは真剣に悩み出す。

「んールキ様的に一体私のどこがいいと思ったんです? とりあえず、かもしれないと思ったきっかけとか」

「…………本人前にして言えと」

「あ、ちなみに私も今はヒトとしてはルキ様のこと嫌いじゃないです。多分」

 淡々とそんなことを口にするベルに、ルキはフリーズする。

「仕事面に関しては本当に尊敬しています。あと結構真面目で、でも抜けてて、揶揄った時の反応も面白いなぁーと思ってます。まぁ、基本的に面倒くさいヒトだけど、ルキ様のこと嫌いじゃないですよ?」

「ベルのオブラートは破けてるのかな!?」

 待って、何これどういう状況!? とルキはベルをマジマジと見る。

「すみません、嫌いじゃないは失礼ですね! 好きか嫌いかの2択なら好きです。でも、これが恋とか愛かって言われると違うような……。じゃあ、この好きは何かって言われても、定義づける明確な言葉と根拠、証明できる材料がないからはっきりとしたラベリングができないですね」

 難しいなぁと眉根を寄せたベルは、

「すみません、やっぱり私にも判断できそうにないです。世の中の恋人や夫婦ってどうやってその気持ちを定義づけるんでしょうか?」

 とルキに尋ねた。

「いや、俺に聞かれても。そもそも聞いたの俺だし」

 いやいやいやいや、と言ったルキと疑問符だらけのベルは目が合って、ほぼ同時に笑い出す。

「俺は、多分ベルとこうやって笑い合える時間が楽しくて好きなんだと思う。これがなくなったら嫌だなって思うくらい。けど、これが恋とか愛かって言われると分からない」

「その気持ちなら私にも分かります。恋愛小説とかって何であんなにも簡単に自分の気持ちを理解できて、相手も明確に気持ちを返してくれるんでしょうね」

「フィクションだからじゃない? 見たことないけど」

「ルキ様共感性低そうですしね。その点多分私達よりシル様の方が感受性は豊かですよ」

 手持ちの分全部読んじゃったんですよとベルは楽しそうにルキに話す。
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