結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
ベルとの関係を『お付き合い』にしてみたけれど、だからといって何かが急に変わったわけではなかった。
感情のラベリングもできないまま、それでも何となくベルの顔が見たくてルキは彼女の部屋を訪れる。
だが、ノックをしても返事がない。夕食後特にどこかへ行くとは言っていなかったしなと首を傾げたルキは、何となくドアノブを回す。
するとそれは抵抗なく回り、音もなくドアは簡単に開いた。
ベルは電気をつけっぱなしにして、鍵をかけ忘れて出かけるタイプではないので、少し席を外しているだけだろうか、とルキは部屋を静かに覗く。
「……ベル、こんなところで」
ルキは少し呆れたようにそう言って静かに部屋に入る。
机に伏して寝息を立てるベルの周りにはたくさんの紙が散乱しており、何かの資料を作る途中で寝落ちしたらしい様子が見てとれた。
「仕事、立て込んでるのかな」
ちゃんとベッドで休まなければ疲れも取れないだろうがあまりに気持ち良さそうにすやすや寝ているため、起こすのも気が引ける。
どうするべきかと悩んだルキは、ふとベルが作りかけていた資料や散乱していたメモに視線を落とす。
「……コレ、は?」
ベルが作っていたのは、どうすれば"愛してる"が分かるのか? といったテーマのマインドマップだった。
それに加えて何人かにインタビューをした質的データをキーワードで分類し"愛している"と判断するに至った経緯を客観的に捉えられるように整理している。
「ロジックツリーまであるし。……って何、この問題解決に向けたやる事リストって。落とし込み方に既視感が」
ベルはおそらく一番自分がわかりやすい形で情報を整理しているのだろう。
ルキはベルの本気度がすごいと仕事でもないのに熱心に作り込んでいるそれを見ながら自然と顔が綻ぶ。
「真剣に考えてくれて、ありがとう」
ルキはそうつぶやいて、ベルの書いた文字を丁寧に辿りながら、彼女に対する感情を整理していく。
その中でルキは『触れたいと思うか?』と書かれた内容に目を留める。
「触れたい、か? 相手を深く知りたいと思うか? 自分の内側に入ってくることを受け入れられるか? ……付き合ったとして、私にそれができるのか? ……か」
そこに書かれた最後の問いは、ベル自身に向けられたものだった。
「どこまで、触れてもいいんだろうか? お互い」
ベルといるのは、楽だった。彼女はいつも無理しなくていられる距離をとってくれていたから。
自分にとって楽だと思ったその距離はベルにとってはどうだったのだろうと気になる。
「知りたい、な。ベルの事。俺はちゃんと君が知りたい」
あと4ヶ月と少しで別れる日が来るのだとしても。
そうすれば、自分のこの気持ちにキチンと名前がつけられる気がした。
感情のラベリングもできないまま、それでも何となくベルの顔が見たくてルキは彼女の部屋を訪れる。
だが、ノックをしても返事がない。夕食後特にどこかへ行くとは言っていなかったしなと首を傾げたルキは、何となくドアノブを回す。
するとそれは抵抗なく回り、音もなくドアは簡単に開いた。
ベルは電気をつけっぱなしにして、鍵をかけ忘れて出かけるタイプではないので、少し席を外しているだけだろうか、とルキは部屋を静かに覗く。
「……ベル、こんなところで」
ルキは少し呆れたようにそう言って静かに部屋に入る。
机に伏して寝息を立てるベルの周りにはたくさんの紙が散乱しており、何かの資料を作る途中で寝落ちしたらしい様子が見てとれた。
「仕事、立て込んでるのかな」
ちゃんとベッドで休まなければ疲れも取れないだろうがあまりに気持ち良さそうにすやすや寝ているため、起こすのも気が引ける。
どうするべきかと悩んだルキは、ふとベルが作りかけていた資料や散乱していたメモに視線を落とす。
「……コレ、は?」
ベルが作っていたのは、どうすれば"愛してる"が分かるのか? といったテーマのマインドマップだった。
それに加えて何人かにインタビューをした質的データをキーワードで分類し"愛している"と判断するに至った経緯を客観的に捉えられるように整理している。
「ロジックツリーまであるし。……って何、この問題解決に向けたやる事リストって。落とし込み方に既視感が」
ベルはおそらく一番自分がわかりやすい形で情報を整理しているのだろう。
ルキはベルの本気度がすごいと仕事でもないのに熱心に作り込んでいるそれを見ながら自然と顔が綻ぶ。
「真剣に考えてくれて、ありがとう」
ルキはそうつぶやいて、ベルの書いた文字を丁寧に辿りながら、彼女に対する感情を整理していく。
その中でルキは『触れたいと思うか?』と書かれた内容に目を留める。
「触れたい、か? 相手を深く知りたいと思うか? 自分の内側に入ってくることを受け入れられるか? ……付き合ったとして、私にそれができるのか? ……か」
そこに書かれた最後の問いは、ベル自身に向けられたものだった。
「どこまで、触れてもいいんだろうか? お互い」
ベルといるのは、楽だった。彼女はいつも無理しなくていられる距離をとってくれていたから。
自分にとって楽だと思ったその距離はベルにとってはどうだったのだろうと気になる。
「知りたい、な。ベルの事。俺はちゃんと君が知りたい」
あと4ヶ月と少しで別れる日が来るのだとしても。
そうすれば、自分のこの気持ちにキチンと名前がつけられる気がした。