侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます

どうせ政略結婚でしょう?

 ノーマンと出会って季節が変わった。そんなある日のこと、彼が自分の自宅兼ジムに来ませんか、と誘ってくれた。なんでも、自宅の一部を改築してトレーニングやマッサージが出来るようにしているとか。彼の顧客の中には、設備の整っている彼のジムを訪れてトレーニングの指導やマッサージを受ける人も少なくないらしい。

「そうですね。夫に許可を得る必要がありますし、また機会がありましたら」

 さすがに男性の自宅を訪れるのはいただけない。

 侯爵とわたしの関係に愛や絆や信頼、それどころかほんのわずかな接点すらない、ないない尽くしである。とはいえ、一応わたしはダウリング侯爵の妻。そのわたしが、大きなお屋敷を公式に訪問するならともかく、若い男性の住む家を訪れるなんてあり得ない。

 いくら世間知らずとはいえ、それくらいの良識は持ち合わせている。

「夫の許可? ずっと妻をほったらかしにしている夫のですか?」

 ノーマンは大げさに溜息をついた。

 若くて美しくてやさしい、侯爵とはまったく違う種族であるかのような青年。

 当然ながら、ノーマンには侯爵とわたしの関係についていっさい話をしていない。

 そんな個人的な内容まで話す必要などない。
< 21 / 68 >

この作品をシェア

pagetop