侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
「クーン」

 甘えたような、それでいて悲しそうな鳴き声にハッとした。

 階段をのぼりきったところに、アールがいるのが侯爵越しに見える。アールだけではない。執事のバートやメイドのケイシーと他のメイドたち、それから馭者のブルーノも立っている。

 みんな、一様に驚いた表情でこちらを見ている。

 わたしの叫び声は、屋敷中に響き渡ったに違いない。それで、驚いてやって来たのね。

 恥ずかしいったらもう。

「アール、ごめんなさいね」

 侯爵越しにアールに声をかけると、彼は大きくてモフモフの尻尾を振りつつ駆けて来た。

 両膝を折ってから、彼の大きな狼面を抱きしめた。

「犬を屋敷にいれるな」

 どうやら、わたしの叫びは侯爵には響かなかったらしい。

 どうでもいいことを嫌味ったらしく言ってきた。
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