侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
「アールは、わたしを心配してくれているのです」
「そうだろうとも。きみは、男性にモテるからな。それと、政略結婚というのは、きみの言うように簡単に事が運ばないものだ。簡単にいくのなら、とっくの昔にそうしていた……」
「旦那様っ!」

 侯爵の憎まれ口の最後の方は、バートたちが彼を呼ぶ声でかき消されてしまった。

「そうですか。わかりました。それでしたら、わたしが出て行きます。短い間でしたがお世話になりました。アール、行きましょう」

 わたしーーーーーっ、売り言葉に買い言葉的行動はやめなさい。

 心の中で自分自身を諫めたけれど、すでに侯爵の横をすり抜け、引き留めようとするバートたちをかわし、階段をおり始めていた。

 アールは、素直についてきている。

「旦那様っ。はやく奥様を、奥様をとめてください」
「旦那様っ!」
「旦那様、なにをなさっているのです」

 階上から、バートたちの狼狽えた叫び声はきこえてくる。

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