侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 同時に、馬車の向こう側から男女が現れた。

 一つ傘の下、レディは男性に抱きついている。

 おもわず、歩を止めていた。

 無意識の内に声をだしてしまったみたい。

 男性が気がつき、こちらを見た。

 小雨の中でも、おたがいの表情は確認出来る。

 アールのリードが、手から滑り落ちたのを感じた。

 どう理解していいかわからない。とにかく、ここから逃げだしたい。これ以上、彼のこんなところは見たくない。

 その思いで頭も心もいっぱいになっている。

 一歩、二歩と足が勝手にうしろへ下がり始めた。

< 37 / 68 >

この作品をシェア

pagetop