侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
「おい、おれの妻と飼い犬になにをしている」

 そのとき、アールのうなり声よりもはるかに低く、獰猛な響きを帯びた声が流れてきた。それこそ、流れてきたという表現がぴったりなほど、廊下を這うような感じできこえた。

 その声にも覚えがある。

「ダ、ダウリング侯爵?」

 ノーマンの手が緩んだ。

 その機を逃すほどわたしは間抜けではない。

 身を翻し、アールとそれから侯爵の側まで下がった。

「妻を誑かし、おれを脅す算段か? ふんっ! この代償は高いぞ」
「くそっ」

 侯爵の毅然とした態度に、ノーマンたちは怖れをなすと思った。だけど、違った。

 ノーマンは仲間の手から酒瓶を奪うと、こちらに殴りかかって来たのである。

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