婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
「……抵抗しないんだな?」
「ちょっとだけならねっ」
「ははっ」
すると今度は私の頬に手を添えて、くいっと顎を持ち上げるので、流石にペシ!と叩いた。
「そこまで!」
「ちぇっ」
だからここは会社だっつーのに!!
皇輝を甘やかすとすぐに調子乗るから気をつけないと。
「はいはい、わかったよ」
「全くもう」
「……家に帰ったらたっぷり甘やかしてくれるってことだよな?奥さん」
「……っ!耳元で囁かないで!」
「真っ赤じゃん。かわい」
「早く帰るよ!!」
皇輝のこの甘さに慣れる日はくるのだろうか。
皇輝のスイッチって急に入るから油断がならない。
「つーか妃乃、なんで朝は別々なんだよ。車で送ってやれるのに」
「やだよ!夫婦で外車出勤なんて恥ずかしいじゃない!」
「別にいいじゃねぇか」
「ダメ!今は有難く乗らせてもらうけど」
そう言って黒塗りの外車の助手席に座らせてもらう。
「前から言ってるけど、痴漢に遭ったらどうすんだよ」
「女性専用車に乗ってるから大丈夫だよ」
「帰りは違えだろ」
「大丈夫だって!」
「ダメだ。見られたくないなら会社の手前で降ろすから」
「過保護だなぁ……」
本当に皇輝ってば心配性すぎるけど、私のこと思ってくれてるんだなと思うと素直に嬉しい。
「ありがと。じゃあ明日から送ってください」
「最初からそう言えって」
本当は車出勤を断ってた理由はもう一つある。
運転する皇輝があまりにもカッコよすぎて、朝からドキドキしちゃうから――。
……なんて、これは絶対秘密だけどね。