婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
突然誰かにぶつかった。
廊下の角で死角になっていてよく見えなかった。
「すみません!」
「いえ、こちらこそ」
そうして顔を上げて相手の顔を見て、思わず目を丸くした。
「岸くん……?」
「……!中村?」
私のことを旧姓で呼ぶ彼は、高校の同級生の岸遼馬くん。
私の元カレでもある――。
と言っても、付き合った期間は1ヶ月もないんだけど……。
「久しぶりだね……!この会社だったの?」
「いや、打ち合わせで来てたんだ」
「えっ私もだよ。どこの会社?」
「博誠堂って広告代理店」
はっ博誠堂!?!?
「そんな大手に!?」
「たまたま運良く入れただけだよ。中村は?」
「あ、私もチェスターっていう広告代理店で……」
「え、チェスターって、」
「岸!何してるんだ!」
そこで岸くんを呼ぶ男性の大きな声が響いた。
「すみません!今行きます!
ごめん、もう行かなきゃ。あの、これ」
そう言って岸くんは名刺を1枚取り出して渡してくれた。
「そこに連絡先も書いてあるから!じゃあね!」
足早に去っていく岸くんは、高校時代の面影が見えた。
野球部で高校時代は坊主頭だったけど、今は刈り上げたベリーショートでスポーツマンらしい爽やかさを醸し出している。