婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
「……中村、すごく綺麗になったね」
「え?」
思わぬ褒め言葉に驚いて岸くんを見返す。
街頭の光のせいかもしれないけど、岸くんの頬が赤く染まっているように見えた。
「あの、中村って」
「もう中村じゃねーよ」
急に割り込んできた声と、後ろから強い力で引っ張られる。
気づいたら皇輝に後ろから抱きしめられる形になっていた。
「――えっ、皇輝!?」
「突然現れて人の妻を旧姓で呼ぶな」
ちょ、岸くんの前で……!!
「お前、天王寺か……?え、妻って……」
「あの、岸くん!これはねっ!」
「妃乃、帰るぞ」
「え。」
グイッと腕を掴まれ、そのまま引っ張られて車に乗せられる。
ちょっと待ってよ!!
なんでいつも以上に強引なの!?
「岸くん、ごめんね……!!」
窓を開けて岸くんに謝ったけど、すぐに車が発車して聞こえたのかどうかはわからない。
岸くんはポツンと立ち尽くしたまま、皇輝の車を見つめていた。
「ちょっと皇輝!!岸くんに失礼じゃない!!」
「…………。」
だけど皇輝は何も言わない。
ずっと不機嫌そうな仏頂面のまま、車を走らせていた。