婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
「……うっ……」
「天王寺、さん……?」
ハッとして振り返ると、驚いたような心配したような表情で岸くんが見つめていた。
咄嗟のことで取り繕うことができなかった。
「泣いてるの……?」
「……っ!」
その言葉で涙が頬を伝っていたことに気がつく。
「これは、違うの……」
「違わないよね?何かあったんでしょ?」
「だ、大丈夫……っ」
「大丈夫じゃないよ!!」
岸くんは私の腕を掴んだ。
そんなに強く掴んでいないのに、何故か振り解けないし「絶対に離さない」という強い意志を感じる。
「……っ」
「天王寺さん、この近くにすごく雰囲気の良いバーがあるんだ。
マスターが良い人でよく一人飲みしてるんだよ」
「……」
「ちょっとだけ飲んでいかない?てゆーか、そんな風に泣いてる君を一人にできないよ…」
「……ちょっとだけなら」
今の私に岸くんの誘いを断ることはできなかった。
一人でいると不安で心が押し潰されると思ったから。
「行こうか」
岸くんは優しく微笑み、私の腕を離してハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう……」