婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
「天王寺…いや、中村妃乃さん。
まだ君が結婚していないなら、俺にもチャンスをくれませんか?
今度こそ絶対に幸せにしてみせるから」
「そ、れは……」
「返事はまだしないで欲しい。
今はライバルだし、お互いコンペに集中したいと思うから。
でも、俺のこと少しでもいいから考えてみて欲しい」
「…………。」
「マスター、お代はこちらに置いておきます。彼女の分も」
止める間もなく「それじゃあ」と岸くんは帰ってしまった。
カウンターには二人分のお金と空いたグラスだけ残った。
マスターは丁寧にお金を受け取り、代わりに私の目の前に新しいカクテルを出した。
「えっと、これは?」
「私からのサービスです。セプテンバー・モーンでございます」
とろみのあるピンク色の綺麗なカクテルだ。
「ありがとうございます」とお言葉に甘えていただくと、まったりとした甘さとさらりとしたコクのあるカクテルだった。
「こちらは貴女の心はどこに、という意味がございます。
じっくりご自分と向き合ってみてください」
にこやかに微笑むマスターの笑顔を見て、目の前にいたマスターが話を聞いていないわけないと思った。
なんて壁になるのが上手で、ホスピタリティに溢れた人だろう。
あなたの心はどこに。
私の心は――