婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
「はい、天王寺です」
「お世話になります。ベリーズの阿僧です」
「お世話になります。阿僧さん、この度はありがとうございます」
「……天王寺さん、できれば誰にも聞かれない場所に移動していただけますか?」
「え……?」
阿僧さんの言葉に戸惑ったが、チラリとメンバーに目配せして席を立った。
空いている個室会議室に入り、少し声をひそめながら電話口に話しかける。
「もしもし、今移動しました」
「ありがとうございます。天王寺さんのお耳に入れておきたいことがあります。
但し、これは私の独断です。他言は控えてください」
何やら不穏な気配を感じる。
思わず唾を飲み込んだ。
「何でしょうか?」
「今回のコンペですが、既に博誠堂で決まる予定です」
「えっ!?」
どういうこと!?これから最終コンペではないの!?
「最終コンペはデモンストレーションのようなものです。吟味した上で博誠堂が選ばれた、という建前が欲しいのです。
実際は既に決まっています」
「どうしてですか!?」
「簡単に言えばコネでしょうか。ベリーズの営業部長と博誠堂の企画部長は古くから繋がりがあるようで。
私も詳しいことは知りませんが、裏で取引があったようです」
「そ、そんな……」