婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。
皇輝の言葉に思わず顔を上げた。
「え?」
「やっぱり妃乃をリーダーに選んで正解だった」
「っ!」
「頼りにしてるよ」
ニコッと優しく微笑んでくれたことが、素直に嬉しかった。
上司として褒めてくれたこと、私のやっていることを受け入れてくれたことが、とても嬉しかった。
「ありがとう。頑張る」
「だけど、そろそろ帰るぞ。働き方改革だ」
「ふふっ、なんか皇輝が働き方改革って言ってるの変なの」
「なんだよ。俺が社長になったからには、長時間労働なんて絶対にさせねぇぞ」
「頼りにしてます、社長!」
改めて皇輝はすごい。
25歳で社長に就任して、早速大きな案件をもぎ取り社員の労働環境も見直そうとしてくれている。
「お姉ちゃん、鼻が高いなぁ」
「……は?」
「え?いや改めて優秀な弟を持ったなぁと思って」
「弟じゃないだろ」
皇輝は私の左手を取ると、薬指の指輪からスレスレの位置にキスをした。
そしてじっ、と私を見つめる。
一瞬皇輝が知らない男性に思えて、ドキッとした。
「今は夫婦だって言ったよな?」
「……っ!」
それから皇輝は私の手を離し、踵を返した。
「つーかそもそも、俺は妃乃のこと、姉だと思ったことは一度もない」
「えっ……」
「帰るぞ。戸締まり忘れるなよ」
そう言ってスタスタと先に歩いて行ってしまう皇輝の後ろ姿を、しばらくぼうっとしながら見つめてしまった。