婚約破棄されたらエリート御曹司の義弟に娶られました。


とは言え、妃乃はなかなか弟扱いが抜けなかった。
出会った当初からそうだったから仕方ないのかもしれないけど、社長としての俺にはすぐ順応するくせに。

しかもお互い仕事に追われ、せっかく同棲に漕ぎ着けたというのに、家ではほとんど会わない。
妃乃は初めてリーダーという立場になり、必要以上に自分を追い込んでいた。

だから、仕事も含めて妃乃をベリーズランドに連れ出した。
デートであることを強調し、少しでも意識して欲しいという下心もあった。

だけど、楽しそうに笑う妃乃が、時折翳りのある表情を見せる。
すぐに笑顔に戻るものの、翳りを見せる度に言いようのない苦しさと悔しさで締め付けられる。


――まだあの男のことが忘れられないのか……。


でも、妃乃が抱えていた傷は想像以上に深かった。
婚約者と後輩に裏切られたという、大きなトラウマを植え付けられていたのだ。


「と、塔子ちゃんに誘われて、簡単に奪われるような仲だったんだって……それを思うと、つらくて……また裏切られるんじゃないかって……っ」


嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる妃乃を強く抱きしめた。
俺なら絶対泣かせない。

妃乃にそんな顔させないし、毎日飽きる程愛して、愛し抜いて溺れさせてやるのに。


「俺は妃乃が好きだ。出会ってからずっと、妃乃のこと女としてしか見てない」


だから妃乃、もう弟扱いするなよ。
俺のこと男として見ろよ。

絶対惚れさせてみせるから。


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