フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
この春、大学に入学したばかりの樹に余計な心配をかけたくなくてそんなことを言ったが、全然大丈夫ではなかった。
穂乃香と樹は、幼い頃に父を亡くし母が女手ひとつで育ててくれた。だが、その母も二年前に他界している。
以来、猫の額ほどのアパートで弟と身を寄せ合うようにして暮らしてきたが、弟が進学とともに大学の寮に入ったため、穂乃香は一人暮らしを始めたばかりだ。
母親の残してくれた生命保険もあるにはあるのだが、それほど大きな金額ではない。
母方の祖父母が九州にいて時折連絡をとってもいる。
けれど、母の兄である伯父が営む電器店の経営が思わしくないようで、とてもじゃないが頼れるような状態ではなかった。
他にも、母の妹である葛城《かつらぎ》雪という叔母がいる。
雪は大学進学を機に上京しており、一流企業に新卒で入社して以来重役の秘書を務め続けている、現役のキャリアウーマンだ。
実は雪に憧れて秘書を目指すようになった。
雪は姉御肌タイプで、穂乃香と樹のことをいつも気にかけてくれている。よく相談にものってくれていた。
何かあれば、力になるから頼りなさい。事あるごとにそう言って声をかけてくれている。
だからこそ、余計な心配はかけたくなかったのだ。
式に招待する予定だったため婚約破棄したとは伝えたが、キャンセル料のことまでは話せずにいた。