フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
婚約破棄された上に式場のキャンセル料まで全額払う羽目になったなんて、そんなこと口が裂けても言える訳がない。
しかも、母が残してくれた生命保険でキャンセル料と奨学金を払えば残金は雀の涙ほどしか残りそうにない状況だ。
だというのに。元彼が妊娠させた相手というのが重役の娘だったため、秘書課に勤務していた穂乃香は退社せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。
何とも理不尽な話だが、世の中なんて、そんなものなのかもしれない。
ただの一社員でしかない穂乃香には、地位も名誉も権力もお金も、両親さえもいない、ないない尽くしなのだから。
だからこそ、意地になってしまったのだ。自身の性格が恨めしいが、くよくよしていても状況は変わらない。悪くなる一方だ。
樹に心配をかけないためにも、何とかしなければーー
穂乃香は自嘲気味な笑みを浮かべてから表情をキリリと引き締めた。そうして己を鼓舞するために、頬をパチンと叩いて喝入れ完了。
信用できるのはこれまで培ってきたスキルだけ。
ーースキルをもっと磨くためにも仕事一筋で頑張らなきゃ!
仕事モードに武装した穂乃香は、気持ちも新たに、試練のように絶えず押し寄せる人の波を掻き分けながら、今日から新しい職場となる会社の最寄り駅へと降り立ったのだった。