フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
ーーなんの罰ゲームよ。ふざけんな、このクズ男!
自分が惨めで仕方ないし、見る目のなかった自分に対して腹が立ってしようがない。
目の前のクズ男がこれ以上聞くに堪えない戯れ言を口にしないよう、ピシャリと言い放つ。
「わかったわ。キャンセル料は全額出すから、私の前から今すぐ消えて!」
そうして言い切ると同時に気づく。男のことを本気で好きではなかったのだとーー
彼は同じ会社に勤める営業部のエースで、穂乃香は秘書課に勤務している。
昨年の暮れ、同僚が主催した飲み会に参加した際、一目惚れしたと言って告白され交際へと発展。彼が三十になったのを機に婚約した。
婚約までしていたというのに、彼に対する感情は一瞬で冷めてしまったようだ。
彼との別れを悲しいとも思わないし未練もまったくない。彼のどこが好きだったのかも思い出せないくらいだ。
穂乃香には、仲睦まじかった両親のように、素敵な相手と巡り会って結婚し幸せな家庭を築くという、幼い頃からの夢があった。
おそらく、彼に告白されたことで、自分には無理だと諦めていた夢をこの人となら叶えることができるかもしれない。そんな幻想でも抱いてしまっていたのだろう。
そうとしか思えない。
ーーだからって、こんなクズ男と一年近くもの時間を費やしてきたなんて、本当に情けない。クズ男の顔なんか二度と見たくない。
そんな思いに駆られていた穂乃香には、冷静な判断能力などなかったのだと思う。
じゃなきゃキャンセル料なんて払うわけがない。
収まりのつかない感情を持て余した穂乃香は、何とか気持ちを落ち着けようと、目についたバーへと誘われるようにして足を踏み入れていた。