フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜
どうやら穂乃香はこの男性に元婚約者の件で愚痴ってしまっていたらしい。
見ず知らずの男性。しかも、ナンパ男から助けようとしてくれた親切な人にカクテルをぶちまけるという、恩知らずにも程がある仕打ちをしたというのに、愚痴まで零していたなんて……。
いくら酔っていたとはいえ、何という大失態。
もう恥ずかしいやら情けないやらで、今すぐ消え去りたい心境だ。
ーーいっそ床に穴でも掘ってしまおうか。
おかしな思考が浮かんだが、我に返った穂乃香はすぐさま頭を振ってそれらを追い払った。
これ以上ここにいたら、何が飛び出してくるかわからない。
バーで意識を失ってからの記憶がすっぽりと抜け落ちているのだ。生きた心地がしない。
生まれてこの方、二十七年の人生を歩んできた穂乃香は、絵に描いたような優等生ぶりを発揮してきた。
大失態を犯したことなど一度もない。
こういう時の対処法など取得していないので、頭には一刻も早くこの場から逃げ出す算段しかなかった。