おともだち
 結局宮沢くんが来るのか来ないのかわからないので、みんなそれぞれ交流を深めるのに移動し、私は誰と話そうかな、と奈子の好きそうなタイプはいないかと誰もこっちを見ていないのをいいことに不躾な視線を巡らせているところだった。

 ふと誰かの気配がした。
「お疲れ様です」
 来た瞬間にわかった。この人が噂の“宮沢くん”だ。この人かぁ。挨拶を交わす程度の人だけど、ちゃんと覚えているのは、皆が言うように確かに彼は一度見たら忘れない容姿の人だった。……かっこいい、確かに。近くで見ると尚更。
「お疲れ様です。えっと……」

 そう言って自己紹介が終わると彼は
 「そう? でね、総務部の仁科多江さん。えっと、同い年なのでラフな言葉遣いで大丈夫、です」
 と私の口調を真似て私の緊張を解いた。
 
 お酒を飲む時、何かを食べる時。話しかけながら横顔を見上げる。すっとまっすぐ伸びた鼻筋、影が出来るんじゃないかと思うくらい長い睫毛は濃すぎないおかげで爽やかな印象。
 
 不意に、横顔だった彼がこちらを向くと、自然に顔を近づけてきた。
「賑やかで聞こえないから」と他意なく笑う。不快にならないギリギリのラインを保ってくれてるんだろうけど、じっと見ていた私はハッとする。横顔は綺麗だけど、正面から見据えられれば息がとまってしまう。印象的だった綺麗な鼻梁は正面から見ると目にとってかわられた。ちゃんと横幅のある目は何か思惑を含んでいそうで、爽やかだと思っていたけど、セクシャルな魅力もある。……この人、ちゃんと男性として会話を楽しんでいる。やばい。私はどっと体温が上がるのを感じた。
 
 彼は一方的に話すでもなく、私にもちゃんと話させる。会話を促すのだ。この人ともう少し話していたい。そう思わせる空気。今はここに他の誰も来ないといいなって、思ってしまう。

 でもけして彼は私に気があるわけじゃないだろう。勘違いしてしまいそうな態度に誰も勘違いしないのは、これが彼だからだ。

 『はは、やだぁ、仁科さん。そういうんじゃないよね、宮沢くんは。多分、彼女いるし』
 さっきの言葉をなるほど、と噛みしめる。この言葉に尽きるのだ。

 
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