おともだち
 宮沢くんは何かの拍子に「仁科さん、彼氏は? 」と聞いてきた(わかってるけど)下心のまったくない気軽さで尋ねられると“いらない”の意味を込めて首を振るだけで否定した。ここで聞かなければ、自然を装って聞く技術のない私はできるだけ声のトーンに変化が無いよう努め「宮沢くんは? 」と同じ質問を返した。

「うーん……いない、かな」

 私には気軽に聞いたのに、自分は今、含みを持たせた気がする。驚いて顔を上げると、彼はいたずらに微笑んだ。


 ――――

 家に帰り、酔い冷ましの水で喉を潤した。一息ついたところで頭の中に宮沢くんの笑顔が張り付いていて、顔を手で扇いだ。……変なこと……は言ってないはず。初めての人と話すといつもあとになって心配することになる。けど、今日はそれだけじゃなかった。

 かっこ、よかったー……。

 ほれぼれとしてしまったな。今まで見た一般人で一番かっこいいかも。

 あっと、何してるんだろ。早く寝よう。明日は休みじゃないんだから。私は無理に宮沢くんの余韻を終わらせて眠る支度をした。

 ベッドで眠りにつく前にはもう一度宮沢くんの端正な顔を思い出してしまった。勝手に浮かぶんだもん、仕方がない。でしょ?誰にでもない言い訳をして目を瞑る。目を瞑るのは眠るのに有効なだけでなく思い出すのにも有効だという事を知った。

 私が彼氏いらないってわかると含みを持たせたよね。あれ、どういうことだろう……。彼も彼女はいない、かな。彼女はいないけど……。もしかして、()()()()()()はいるってこと?

 それを私に伝わるように笑ったの?察しろってこと?

 まさか、私の考えすぎだよね。

 ――私はいつの間にか意識を手放していた。
 
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