おともだち
 ――翌日。

「ねえねえ、昨日宮沢くんと話し込んでたけど、何話してたの? 」
 興味津々で囲まれた。
 嫉妬とも羨望とも違う、単に好奇心いっぱいのわくわくした表情に、さすが、対象者が宮沢くんだとそうかぁ、と妙に納得した。
「普通に、世間話だよ。すごく話しやすくてびっくりしちゃった。あと、みんなが言ってた意味がわかったよ。なんていうかさ……各方面モテそうな人だね」
「そうそう。ちょっと見とれちゃうよね。造形とか。私が見た一般人のなかで一番イケメンだと思う」
「一緒。私も思った! 」
 昨夜同じことを思った私は思わず吹き出してしまった。
「どうにかなりたいなんて思わないのは、ファンの心理って感じだね」
「わかる。推しとはまた違うんだよ。どうにかなりたくはない、というか」

 皆が同意した。つまり、どうにかなりたい、とういうことだ。

「そう、彼女とかそんなおこがましいことは言わないから。思い出と言っちゃうと重いから、そういうんでもなくて」
「わかる。好奇心。と、やっぱりかっこいいからな」
「そう、もうやっぱかっこいい。絶対私に本気じゃないだろうなってわかってても怒りが起きない」
「わかる。そのへん、すごくうまくやりそうだよね。人当たりもいいから恨まれないし、誰にもバレずに遊びそう。イメージだけど」
「そうそう。私生活は謎でいてほしくもある。潤いだよ、潤い。ちょっとくらい楽しみがないと仕事もやってらんないよ」
「言える」
 
 みんな、宮沢くんを同じ人間と思っていないようだ。こうやって、会社に来る楽しみの一つ、といった存在。彼を見ると元気になるそうだ。とにかく……かっこいいから。それに尽きる。
「わかる。時々は飲みに来てくれるといいね」
「来てくれると思うよ。すごく気さくだったし」
「やった! また楽しみが増えた」

 そう言ってこの場はひたすら『わかる』という同意の応酬で過激なことを言ってるようで微笑ましかった。芸能人が近くにいるような感覚だ。宮沢くんがどんな立ち位置かわかった気がする。
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