おともだち
 私が今欲しいのは恋人ではなくセフレだ。

 恋愛感情が必要ないからといって誰でもいいというわけじゃない。どこのだれかわからない人は嫌だし。それこそ奈子が言うように病気とか?怖いし。キス、出来る人じゃないと。結構限られる。毎回ホテルに行くとなると金銭的に一人暮らしにはキツイ。そうなると、家に呼べるくらい信用できる人がいい。案外近しい人の方がいいのかも。

 その点、会社の人は身元が割れてるしいいんじゃないか。さすがに同じ部署は無理だけど、この大きな会社ではフロアが別ならそう気まずくもない。『別れるのがうまそう』誰かが言った言葉を思い出していた。それから、宮沢くんの態度と。

 ――飲み会の席が離れた時、彼は私に視線を送ってきた。
 少し、試してみようか、勘違いかどうか。グラスを持って彼の横に座った。
「私がわからない話が始まったから、こっちきちゃった。ここにいさせてね」
「何だよ、それ」
 彼は微笑んで、やっぱり何か熱のこもったような視線を向けて来た。……これ……は。私と彼は同じ気持ちじゃないだろうか。

 ――――
 もっと、確信が欲しいところだった。
 機会はすぐにやって来た。帰りのエレベーターが一緒になったのだ。
「おう」
「お疲れ様、今日は早いんだ」
「あー、うん。だな」
「私もー。私は月末は帰りが遅いから月はじめくらいは早く帰ろうって思ってさ」
「へー、いいね。今日は早く帰ってどうすんの? 」
「……なーんも。ご飯でも食べて帰ろっかな。宮沢くんは? 」

 彼を見上げて返事を待つ。誘ってくれると思う。

「なーんも。飯、一緒に食べて帰るか」
「みんなも誘う? あ、けど急だと無理かな? 」
「いいよ、二人で」
 やっぱり……。私たちは同じ気持ちでいいと思う。

 彼の選んだ大人っぽい店のカウンター席。彼が顔を寄せる。他の人には聞こえない声だった。
「わかってるだろうけど」

 私は、当然「うん」と頷いた。ひょっとしたら、継続的な関係では無く、今日だけのお誘いという認識の相違はあるかもしれないな、とは思っていた。今日だけの関係なら、私は断るつもりだった。

「付き合わない? 俺たち」

 え、待って。
 

 
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